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人外王の花嫁

第5章 魔物の王


舟から降り立った。
目の前には大きな神殿。崖の際に建つその神殿は、入り口のみが見えていて奥の方は崖の中へと続いているのだろう。崖を掘られて作られた神殿の周囲には、人間の形をした大きな像も有った。かなりの年代物なのだろう、建物も像も修復はされているものの所々崩れたままになっていた。
太陽の下で見ると、真っ白で綺麗らしい。それも今は夕日に照らされて真っ赤に染まっていた。
何だか、とっても幻想的。

「ささ、中へと入りましょう」

ナグル様に案内されて足を進める。神殿を支える柱だけでも私の何倍もの大きさが有って驚いてしまった。

「ここは昔使われていた神殿でございます。今は新たな神殿がございますが…この国は昔から信心深い国だったのですよ」

新たな神殿と聞いて、私が転移装置から出た時に居た場所を思い出した。大きさはこちらの方が大きいけれど、作りがアモロ遺跡に似ているように思う。

「我々スライムは…特別でございます。悪魔の様な魔力も獣人の様な力も、虫人のような頭脳も有りませぬ。しかし、スライムは特別なのでございます」

ナグル様の言っている事が理解出来なくて首を傾げた。

「何故、スライムがこの世界で一番多い種族なのか分かりますかな?出生率の下がったこの世界で何故スライムだけ多いのか…」

夕方だからだろうか、既に人影も疎らで歩く度に神殿内に足音が響く。一番奥の泉の前まで来て足を止めた。

祭壇は泉の中央に有った。絶えず天井から滝が流れていて、そのわきにはクリスタルだろうか、透明な素材で出来た大きな女と男の像も有った。

「スライムは交尾をせずとも、分裂し数を増やす事が出来ます。それは確かに本体の劣化にもなりますが…この出生率の下がった世の中でスライムだけに与えられた特別な力なのです」

特別と口にするナグル様の表情が、何故か悲しげに見えた。

特別…私には良く分からない。けれど、自分を他者と違い特別な存在なのだと思い込む事は、他人を見下してしまうという危険も孕んでいる。
混血の種族が迫害を受けていると、悲しそうにそして口惜しそうに口にしたルナール様の姿を思い出した。

「様、どうかルナール様を支えて下さいませ」

ナグル様が私に深々と頭を下げた。



あぁ、ナグル様はルナール様の悩みを理解しているんだ。
私は、はい、と返事をしてナグル様に頭を下げ返した。
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