第5章 魔物の王
翌朝には幸いな事に気になっていた手の傷痕も無くなっていて安心した。
「わぁ!」
私は今、小舟に揺られている。水路を行く舟を見ていたらナグル様がせっかくだから舟で観光をしようと誘って下さったのだ。
舟にはナグル様と護衛のスライムさんが三人。ナグル様がさっきから色々と案内してくれている。
「姫様、あれが紅魚でございますぞ」
「凄く真っ赤ですね」
ナグル様が指さしたのは舟の魚屋さんで売られていた魚の中でも一際鮮やかで目を惹く魚だった。
「これ、そこの…一つ頂こう。どうぞ様、食べてみて下さいませ」
「頂きます」
その魚屋さんは紅魚の唐揚げも売っていて、ナグル様が一つ私に買ってくれた。熱々のそれを受け取って齧ってみる。
「んんっ…」
熱くてはふはふと息を付く。噛むと身はプリプリしていて白身魚の様な味。油がしっかりとのっていて、噛むと旨味が口内に広がった。お、美味しい!
「んー!美味しいです!」
頬っぺたが落ちそうになって頬を押さえる。するとナグル様がとても嬉しそうに笑った。
「では今度はジュースなど如何ですかな?」
「はい!」
こうやって舟で買い食いをしながら、ナグル様にあの噴水は有名な芸術家の作品だとか教えて貰ったり、途中舟から降りては市の中を回ったり、今話題のスイーツなんかを買いに列に並んだりした。
「都から少し離れた所には、大きくて綺麗な湖も有るのです。周囲の鉱物が溶け出して緑に見える湖面はそれはもう見事なものですぞ」
ナグル様って、とっても物知りで旅行などのガイドさんになったら人気者になるだろうなと想像して笑ってしまった。ナグル様にもいつの間にか笑顔が増えて、私は安心した。
「さて…大分日も傾いて来ましたしアモロ遺跡に行きましょうかのぉ。夕日に照らされて赤くなったアモロ遺跡はまた格別でございます」
是非姫様に見て頂きたいのです。と誇らしげに笑うナグル様の言葉に昨夜のルナール様の言葉を思い出した。
─アモロ遺跡は…駄目
そのままルナール様は寝てしまったので詳しくは聞けなかったけれど、でも…
私は舟頭に指示を出しているナグル様を見た。とっても嬉しそうな表情を浮かべているナグル様を見ていると、アモロ遺跡に行かないとは言えなかった。
ちょっとだけ…ルナール様ごめんなさい。
私達はアモロ遺跡に向かったのだった。