第5章 魔物の王
夜お部屋に戻って来たルナール様はとても疲れている様に見えた。ナグル様とお話しようとして上手く行かなくて、一日中緊張していたんだろう。
「お疲れ様です」
私の言葉に視線を僅かにこちらへと向けたルナール様は、コックリと頷いて見せたものの吐息をついて肩を落としてしまった。
「ルナール様、明日また頑張りましょう」
落ち込んでいるルナール様の頭へと手を伸ばす。そしてその髪を梳いて微笑んで見せた。するとルナール様は気持ち良さそうに目を細めた後、もっととばかりに自ら私の手へと頭を擦り寄せて来た。
「もっとですか?」
しょうがないですねぇ、と笑ってルナール様に求められるままに何度も頭を撫でた。
ルナール様ってとっても可愛らしい。小動物の様な、弟の様な…つい構いたくなってしまうそんな存在。
私が撫でる手に気持ち良さそうに顔を蕩けさせている姿なんか、つい何時までも撫でていたくなる。
「…」
「はい?」
名前を呼ばれて手を止めた。円な瞳でじっと私を見詰めてくるルナール様がたまらなく可愛い。可愛いと言ったら怒られてしまうかもしれないけれど、やっぱり可愛い。
「……チュー、してくれたら…もっと元気、出る」
「えっ?!」
上目遣いで、恥ずかしいのかもじもじしながら、僅かに頬を染めて見詰めてくるルナール様の可愛らしさが堪らない。でもチューって、キスだよね?
「チュー…ですか?」
コクコクと頷いて、ルナール様が自分の頬をチョンチョンとつつく。頬にキスすれば良いのかな?何だか改めて催促されると恥ずかしい。でも頬になら…
「じゃ、じゃあ…チューします、よ?」
「ん…」
ルナール様が頬に口付けしやすい様に屈んでくれた。目の前にルナール様のぷるぷるお肌が差し出される。私は緊張に喉を鳴らした。
「ルナール様の元気が出ます様に…」
私はそう願いを込めてルナール様の頬へと私の唇を押し付けた。ルナール様は私の唇が頬へ触れると擽ったそうに肩を揺らして笑った。
「は、はい、終わりです!」
私は恥ずかしくて直ぐに離れると、ベッドへと逃げた。そしてベッドに上がり込んでシーツへと潜る。チラリとルナール様の様子を見ると、頬に手を当てて何やら感慨深そうに目を閉じていた。
「ルナール様、寝ますよ?」
そう声をかけるとルナール様は嬉しそうにいそいそとベッドへ入って来た。