第5章 魔物の王
ルナール様は話すのが得意では無さそう。ちゃんと考えて行動しているのに、話したり説明したりしないから周りは理解することが出来ない。それって凄く勿体無いと思った。
あれ以来、ナグル様の元気が無くなってしまった。今までと同じ様にルナール様のそばへと控えては居るのどけれど、明らかに口数が少なくなってしまった。
そんなナグル様にルナール様が声をかけようとするのだけれど、どうやって話しかけたら良いのか分からないみたいで微妙な雰囲気になっていた。
「姫様、本当に申し訳ございませぬ…」
「気にしないで下さい。ナグル様はルナール様が心配だったのでしょう?」
私のお茶の準備をしてくれているナグル様が、改めて頭を下げた。
「ナグル様はルナール様が大切なんですね」
その言葉にナグル様が力無く笑った。
「そうですな、我が子…と言っては不敬に当たるかもしれませんが。それでも先代様と母上様が幼い時に亡くなられて以来、私はルナール様を我が子の様に見守って参りました」
カップに紅茶を注ぐナグル様。琥珀色の液体が入ったカップを私の前へと置いてくれた。
「ルナール様は本当はとても聡明で、優しいお方なのでございます。それを知っているだけに歯痒くて…しかし私は…急くあまりに判断を誤ったのやもしれませぬ。あの様にお怒りになったルナール様を見たのは初めてでございます」
寂しそうなナグル様の体がとても小さく見えた。ルナール様に厳しいナグル様。それはルナール様への愛情の現れなんだ。行き過ぎた所は有るけれど、それもルナール様の事が大切だから。
「…ナグル様の気持ちは、ルナール様にも伝わってますよ」
「そう、だと…良いのですが」
大丈夫ですよ、と自信たっぷりに言うとナグル様から小さく笑みがもれた。
ナグル様の気持ちもルナール様の気持ちも、きっと理解し合うことが出来るはず。ただ少し二人には会話が足りないだけだと思うから。
「…姫様、宜しければ明日アモロ遺跡に行ってみませぬか?こんな事ではお詫びにもなりませんが…せっかくこの国に来られたのですから、この国を好きになって頂きたいのです」
「あ、では水饅頭も食べてみたいです!ナグル様からお聞きして気になっていたんですよ」
それで今回の事は無かった事にしましょう、と笑うとナグル様も目を瞬いた後、私の気持ちを察してくれたのか笑ってくれたのだった。