第5章 魔物の王
「私は何て事を…申し訳ございませぬ!」
ルナール様が私を護る様に、胸へと抱き込んで来る。
「わた、わたくしが、姫様に媚薬を飲ませたばかりに、こんな…こんな…ただ、私はっ」
「……煩い」
ルナール様が不機嫌そうにボソリと呟いた。驚いた事にルナール様が珍しく怒っていた。
「……あっち、行って」
「しかし、ルナール様!」
言い募るナグル様に、ルナール様の中にボコボコッと気泡が立ち上る。それはルナール様の怒りに反応しているみたいで、感情の起伏に合わせて小さな泡、大きな泡とルナール様の体の中を移動していく。
「……っ、申し訳、ございませぬ…」
それを目にしたナグル様が口を閉じ、もう一度謝罪を口にした。そしてフラフラと立ち上がる。
「ナグル様!」
私の声に僅かに反応したナグル様が、私を見て申し訳なさそうに肩を竦めた。その表情はとても悲しそうで寂しそうで…ナグル様はそのまま部屋から出ていった。
静かになった室内。ルナール様は唇を引き結び、眉をしかめた怒ったような表情をしている。
「ルナール様…ナグル様は、悪く無いですよ」
「………」
ルナール様の私を抱き締める腕の力が強くなった。
「ナグル様は、ルナール様の事を心配して、ついやり過ぎてしまったんです」
「…分かってる。でも…が、死んだかと…思って…」
不安そうな声に、今度は私がギュッとルナール様を強く抱き締めて私が生きているって事を伝える。
「キリから、聞いてた…のに、止められ、なくて…気付いたら、の、意識が、無くて…体が、あちこち溶けてて…」
ルナール様の目からポロポロと涙が零れた。体の色と同じ透明で綺麗な涙。
「私は大丈夫ですよ、丈夫ですから…心配をかけて本当に申し訳ございませんでした」
ルナール様が泣き止んでくれるようにと、あやす様に優しく頭を撫でる。
「ナグル様にちゃんと話しておくべきだったんです。ちゃんと話さないと、私達が何を思ってるか、ルナール様が何を考えているか分からないもの」
ね、と同意を求めるとルナール様がコクンと頷いた。その拍子にまたポロリと涙が頬へ零れて、私はその涙を唇で拭った。
驚いたルナール様の頬が僅かに赤く染まる。涙も止まってくれたみたい。
私はルナール様を改めて抱き締めながら、手に残る火傷の痕をこっそり見詰めていた。