第5章 魔物の王
「、ご飯…」
午後からはお城の中の探検をした後、本を読んで過ごした。
夕刻になりお仕事を終えたルナール様がお部屋に私を迎えに来てくれた。ルナール様が私の手を取って食堂へと向かう。…何だかちょっとルナール様が懐いてくれた様な、そんな気がする。
食堂の椅子に座ると、夕食が運ばれて来た。
「…キリとラウが居る…」
運ばれて来た料理には何故かまたもやキリヤ様とラウルフ様が居た。しかも私が作ったものよりもクオリティが半端じゃなく高い。
私は視線を周囲へと走らせた。すると、こっそりとルナール様を見守る料理長さんの姿が見えた。
料理長さん…
私はバスケットを返しに行った時の事を思い出した。空になったバスケットを受け取った料理長さんはとても驚いていた。そして、ルナール様が笑ってくれた事や沢山食べてくれた事を話したのだ。
きっと、料理長さんもそれを期待してこれを作ったのだろうけど…
「な、何だかここまで似ていると食べるのは申し訳ないですね」
「……キリとラウ、可哀想…」
料理長さんが作った物は似過ぎていて食べるには罪悪感がわく程の出来栄えだった。結局、キリヤ様のテリーヌとラウルフ様のハンバーグは余り手がつけられる事は無く、料理長さんは残念そうに肩を落としたのだった。
ご馳走様をして、私はお風呂を頂く事にした。ルナール様はやり残した事が有るとかで執務室へと出かけて行った。
私はお風呂でサッパリして部屋へと戻った。部屋を開けると、ナグル様が居た。
「姫様、お風呂は如何でしたかな?」
「はい、とっても気持ち良かったです」
「そうですか、では湯上りのお飲み物などは如何ですかな?」
差し出されたグラスには氷が浮いていた。ガラスと氷がぶつかってカランと音が立つと、その心地よさに喉が鳴った。お風呂上りで喉が乾いていた私は遠慮なく頂くことにした。
「有難うございます」
「いえいえ…ささ、どうぞお飲み下され」
じっとナグル様が私を見詰めている。それに居心地の悪さを感じながらも、私はグラスに口を付けた。
ミントの様なスッキリとした味の中に、僅かな甘味が混じっている。
私はそれを飲み干した。そして空いたグラスを受け取ったナグル様が何処か安心した様に吐息を付いた。
「では、お休みなさいませ…良い夜を」
そんな言葉を残してナグル様は部屋を出ていった。