第5章 魔物の王
お腹がいっぱいになったルナール様は眠そうに目を擦った。そして大きな欠伸をする。
「お時間は大丈夫ですか?もし大丈夫なら、少しお休みになられますか?」
「…やす、む?」
私はバスケットを脇へと置くと、不思議そうにしているルナール様の肩を引き寄せた。傾くルナール様の体、そして彼の頭を私の腿へと乗せると見上げてくるルナール様に悪戯っぽく笑って見せた。
「膝枕です。嫌ですか?」
「ううん…気持ち、いい…」
目がとろんと眠そうに揺れる。私はサラサラと揺れる透明の髪に触れてみた。不思議な感触。普通に髪の毛の手触りがする。
私は頭を撫でてみた。ルナール様が嫌がらないので、私はそのままゆっくり頭を撫で続ける。
「……不思議、と居ると、楽しくて…落ち着く…」
そうルナール様が口にした後、スゥと安らかな寝息が聞こえて来た。
少し休んでから、起きてもまだ眠そうなルナール様の髪を手櫛で整えた。ルナール様は寝起きが苦手なのかもしれない。
私はそんなルナール様の手を引いて執務室へと連れて行った。
執務室に戻るとナグル様にとても残念そうに肩を落とされた。ナグル様はきっと早くルナール様の子供が見たいから、私達の態度が残念で仕方ないのだろう。
「ではルナール様、お仕事頑張って下さいね?」
「……一緒に、居れば良いのに」
寂しそうに私の服を掴むルナール様の手に、私は自分の手を重ねた。
「お仕事のお邪魔になってはいけませんから」
「じゃあ、また、クッキー…作ってくれる?」
「はい、勿論ですよ」
私の言葉に嬉しそうにルナール様の表情が綻んだ。御機嫌な様子で執務机へと向かうルナール様を見送って、私は部屋を出ようと扉へ向かった。
「やはり…私がお手伝いせねば…ルナール様の為に…」
ナグル様と擦れ違う時に、ふとそんな言葉が聞こえて、私は振り返ってナグル様を見た。
ナグル様はじっと執務机で書き物をしているルナール様を見詰めていた。
その表情は心配気に眉が下がり、そして何処か我が子を見るような愛しさが込められていた。
ナグル様はきっとルナール様の事がとても大事なんだと思う。だから心配で色々と言ってしまうに違いない。それは分かるのだけれど、何だか…子離れ出来ない親のような、そんな想像をしてしまって私は肩を竦めた。
私は小さく息をつくと部屋を後にした。