第5章 魔物の王
バスケットの中には大きく口を開けて牙を剥き出しにするラウルフ様と怒ったような表情のキリヤ様が居る。私はルナール様と距離を詰めて一緒にバスケットの中を覗き込んだ。
「これは、ラウルフ様がキリヤ様を「虫め!」って言ってて、キリヤ様がラウルフ様を「犬め!」って言ってるところです」
「っ!」
その言葉にルナール様がプッと吹き出した。そのまま口を押さえて体を小さく震わせる。私はしてやったりと得意気になってお弁当の説明をする。
「ちゃんと全部食べられるんですよ?料理長さんにお手伝いして貰って作ったんです」
ルナール様が笑いを堪えてプルプルと震えている。
「私、意外とあのお二人って仲が良いんじゃ無いかと思うんですよ。二人共兄貴肌で面倒見が良いので、きっと気が合うんじゃ無いかと…」
「っ、くはっ、あははは!も、駄目…」
ルナール様がお腹を抱えて笑い出した。ルナール様って意外とよく笑うんだよね。身を捩って笑うルナール様を見て、私はとても満足だった。お弁当、作って良かった。
未だに笑い続けるルナール様が、お弁当の中のキリヤ様とラウルフ様をつついて笑っている。そんな姿に心が暖かくなった。
その後、私とルナール様は、食事を楽しんだのだった。
何時もは余り食事に頓着しないルナール様が、お弁当は全部残さず食べてくれた。それがとても嬉しかった。
満足そうなルナール様がお腹を摩っている。私はお茶を入れてクッキーの包みを開けた。
「まだ食べられるようなら、クッキーもどうですか?」
するとルナール様がすかさず手を伸ばしてクッキーを頬張った。幸せそうに蕩ける表情が本当に甘い物が好きなのだと言っている。
それにしてもルナール様の体は不思議だ。透明の体だから体の中が見える。口に入れられた食べ物は噛み砕かれて喉の奥を通って人間なら胃へ行って、となるのだけれどルナール様の場合は途中で溶けて消えて無くなるのだ。とっても不思議。
ルナール様の手が止まること無く必死でクッキーを口へと運んでいる。まるで子供だ。
口の端に欠片をつけながらクッキーを齧る姿は、小動物を見ているみたいで癒される。
「ほら、ゆっくり食べて下さい。誰もとりませんから」
私はルナール様の口の端についたクッキーを取り、自分の口へと運んだ。その様子をじっと見詰めていたルナール様と目が合ったので笑いかけたのだった。