第5章 魔物の王
朝起きたら、またルナール様に抱き締められるようにして眠っていて驚いて飛び起きた。
朝食は要らないから寝ていたい、と言うルナール様を起こして戸惑うメイドさんから服を貰うと寝ぼけているルナール様を強引に着替えさせた。
そして今、私とルナール様は一緒に食堂で朝食を取っている。焼き立ての数種類のパンにサラダと玉子、ウインナーにスープ。ルナール様は眠そうに舟を漕いでいた。ルナール様は朝食を食べる気は無さそうだ。
ふふふ、でも私には秘密兵器が有るのだ。
私はお部屋から持って来た蜂蜜を焼き立てのパンへたっぷりと垂らした。そしてそのお皿をルナール様の前へと置いた。
「ルナール様、ルナール様、蜂蜜ですよ」
「……はち、みつ…」
薄らと開いた目が目の前のパンをとらえた。蜂蜜が塗られたパンは朝日を浴びてキラキラと輝いている。ルナール様はノロノロと手を伸ばすと、パンを手に取って食べ始めた。やった!
「美味しいですか?」
コックリと頷くルナール様に笑って私も朝食を頂いたのだった。
朝食の席でナグル様がルナール様が居る事に驚いていた。そしてそれ以上に昨夜、私とルナール様の間に何もなかった事に肩を落としていた。
ナグル様には申し訳ないけれど、ルナール様の気持ちを大事にしてあげたいと思ったの。
「………じゃ」
食事を食べ終えたルナール様は、一言だけそう言って部屋とは違う方向へと歩いて行った。ナグル様が言うにはルナール様は今からお仕事らしい。
お仕事に行く時はルナール様、嫌な顔はしてなかった。
ルナール様がお仕事の間、お城の探検をするか護衛さんにお願いして城下に出るか。自由になさって頂いて構いませんよ、とナグル様に言われた。でも何と無く私の為にわざわざ護衛を用意して貰うのは気が引けてしまう。
さて、何をしようかなと迷ったのだけれどふとルナール様が甘い物が好きなのを思い出して思い付いた事が有る。
「あの、すいません…出来たらで良いのですが…」
私はメイドさんに厨房を貸してくれる様に頼んでみる事にした。料理は良く向こうの世界ではしていた。クッキーやケーキ位なら何とか作る事が出来る。
ルナール様、喜んでくれるかな?喜んでくれると良いな。
快く厨房を貸してくれた料理長さんに手伝って貰いながら、私は取り敢えず失敗しない様にとクッキーを作り始めたのだった。