第5章 魔物の王
「さぁ、たんとお食べ下さいませ!様、今日はルナール様とどちらに行かれたのですかな?名物の水饅頭は食べましたか?あれは濃いめの茶と一緒に食べると美味いのです。その茶も、我が国の豊富で美しい水で沸かしたものでして…それがまた美味いんです」
私とルナール様は、ただ今夕ご飯を頂いている。お魚メインのお食事はとても美味しくて結局お昼もまともに食べていなかった私は、たっぷりと口に押し込んで堪能している。そんな私達の前でナグル様が息つく暇もなく喋っていた。
「えっと…水饅頭?は、食べて無い、です」
「おや、それはいけませんな。では紅魚の唐揚げは?ヒビン草のジュースは?」
私は問いかけに首を左右に振った。その返答が信じられなかったのか、ナグル様がとてもショックを受けている。
「で、では、流石にアモロ遺跡には行かれましたでしょう?如何でしたかな?素晴らしかったでしょう?あそこは我が国創設以来の神殿跡が有りましてな、国宝とも言われて他国からも高い評価を得ておりますからなぁ」
「えっと…」
ナグル様が私の反応を待っている。でも私にはアモロ遺跡とやらの感想を口にする事は出来ない。だって、今日はそのアモロ遺跡とやらにも行っていないのだから。その私の様子に気付いたナグル様が口を閉じて顔を引きつらせた。
「ま、まさか、そこにも行っておられない…のですか?」
「は、はい」
「っ、な、何て事じゃ…」
ナグル様が頭を抱えてしまった。
「お二人で仲良くお出かけになられたのでは無いのですか?!お二人で一体何処に行かれていたのです!」
興奮気味のナグル様が怖くて、横目でルナール様に視線を送ってみたのだけれどルナール様はそんなナグル様の様子にも何処吹く風でひたすらご飯を口へと運んでいた。
だ、駄目だ、ルナール様の助けは期待出来ない。
「えっと、その、ま、街の中を、散歩…とか?」
私の答えにナグル様が大きな吐息と共に肩を落とした。
「お二人でお出かけになられたと聞いて、期待をした私が愚かでございました…」
「で、でも、とっても楽しかったんですよ?街並みも綺麗でしたし…ルナール様の素敵な所も知る事が出来ました」
「ルナール様の…それは…ようございましたが…」
僅かに反応したナグル様だけど、それでも何処か不満そうにしていた。