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人外王の花嫁

第5章 魔物の王


気分の悪さも落ち着いて、気付くと日が暮れかけていた。
帰る、と一言口にしたルナール様の後を付いて行く。でも行きとは違って帰りの今回はルナール様の足取りがゆっくりだ。きっと私の歩調に合わせてくれてるんだと思う。

メギさんが住んでいる街の辺りから離れて、真っ白な壁が並ぶ地域へと足を踏み入れる。するとその二つの違いが明らかに分かった。綺麗な服で朗らかに笑う裕福そうな人達。その街の雰囲気に激しい違和感を覚えた。

「…迫害を、受けてる」

ルナール様がポツリと話し始めた。一瞬、何の事かと視線を街の人たちからルナール様に戻すと、その視線と重なった。

「仕事に、就くのも…難しい。働く場所が有っても、賃金が安い…」

それがさっきの地域に住む人達の事なのだと気付いて私は息を詰めた。

「蜥蜴との混血は、特に、嫌がられて…医者に、かかるのも、苦労してる…」

蜥蜴と聞いて、先日虫の国の書庫で見かけた二本足で歩く蜥蜴の絵を思い出した。蜥蜴との戦争、と書かれていた本。そう言えば絵のような蜥蜴の人達は未だこの世界で見た事が無かった。

「でも、皆は、それが大変な事だって、気付いて、無い。…自分達が良ければ、それで良い。…不満や不平は、後々、国を汚染するって、解って…ない」

私はルナール様の言葉に静かに耳を傾けていた。ルナール様の言っている事はとても大切な事だ。でも私はその言葉を聞いて微笑んだ。

「でも…」

私の言葉にルナール様が足を止めた。

「大丈夫ですよ、だって王様のルナール様がそれをちゃんと解っているんですから。改善していく事は出来ますよ」

私の言葉にルナール様が目を見開いた。

「は…僕じゃ、無理って…言わないの?」

首を傾げたルナール様が、とても不思議そうにこちらを見ていてつい笑ってしまった。

「皆が気付かない所をルナール様は気付いているんでしょう?それならきっと大丈夫ですよ」

きっとそんなに簡単な事じゃない。でも、ルナール様を見ていると何と無く彼なら出来るのでは無いかと思った。
城を抜け出してナギさんの住む所まで足を運んだのも、きっと自分でその状況を確認する為だ。

夕日が白い壁を赤く染める。とても綺麗で幻想的な景色。

何事にも興味が無さそうなルナール様の内側には、この国を思う優しい心が有るのだと言う事を知った。
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