第5章 魔物の王
スープを食べ終わると、私達はメギさんにお礼を言って店の前で別れた。ルナール様に何かお礼をしたかったメギさんはとても嬉しそうに笑っていた。良かった。メギさんは何とか誤魔化せたみたい。
「こっち…」
メギさんが見えなくなると、ルナール様が私の手を引っ張った。だ、駄目ですルナール様、引っ張らないで…さっきのスープが余程悪かったのか、さっきから気分が悪くて眩暈がするんです。
私は青い顔で手で口を押さえながら、ルナール様に引かれるままにフラフラと歩いた。
ルナール様は私を連れて建物の隙間へと入って行く。そして誰も居ない場所に来ると、私の背中を心配気に摩った。
「…吐いて良いから」
私は必死で頭を左右に振った。
「でも、せっかく、メギさ、が…」
ここで吐き出してしまうとメギさんに悪い。でももう気分が悪くて悪くて、目に涙まで浮かんでいた。
「吐きなよ。遠慮とか、してる場合じゃ、ない……は、良く、頑張ったよ…」
最後の言葉に、私はもう我慢が出来なかった。しゃがみ込んでお腹の中に溜まったものを吐き出した。
「う、えっ…」
「……」
うええ、と吐き出すと先程の茶色い液体と丸飲みした紫の物体が出て来た。息が詰まって苦しい。私は全てを吐き出して座り込んだ。呼吸が荒い。
気付くといつの間に用意したのかルナール様が私に飲み物を差し出してくれた。私はそれを受け取って喉へと流し込む。
薄らと柑橘系の汁が交ざった冷たい飲み物は、私の心を落ち着けて口の中をスッキリさせてくれた。
吐き出してかなり気分は良くなったものの、まだ少し残る違和感に近くの壁へと背中を預けた。
「…不思議」
ボソリとルナール様が呟いた。その言葉に目線をそちらへ向けると、私をじっと見詰めているルナール様が居た。
「…何で、不味いのに、食べた、の?」
「え、だって…食べないとメギさんに申し訳ないです。それにルナール様も、不味くても美味しいってメギさんに言ったでしょ?それと同じですよ」
私の言葉にルナール様の目が丸くなる。その瞳が何で分かったの、と言っているように見えて笑ってしまった。
「だってルナール様、蜂蜜を食べた時と反応が全然違うんですもん」
そう言って笑うとルナール様が照れた様に視線を泳がせた後、斜め下へと目線を下げた。