第5章 魔物の王
「わぁ、有難うございます」
私とルナール様は男の人に連れられて、お店へと入った。男の人は虫と蜥蜴の混血で、名前をメギと言った。メギさんは母親の病に困っていて、でも診てくれる医者が居なくて困っていた所をルナール様に助けて貰ったらしい。
そんなメギさんのご招待で余り綺麗とは言えない店内のテーブルに座る。運ばれて来たのは何だか分からないものが浮いたスープだった。
ここに来て分かった事が有る。先程歩いて来た美しい街並みと比べて、この一帯には余り裕福では無い人達が住んでいるみたい。ここら辺を歩く人達はメギさんみたいな混血の人が多い事にも気が付いた。
「余り贅沢なもんは出せないが、ここのは美味いって人気なんだ。さぁ、遠慮なく食ってくれ!」
メギさんが得意気にスープを勧めて来た。改めて目の前のスープを見る。茶色い液体に、何やら紫色のブヨブヨしたものが浮いている。正直、余り食べたくは無い見た目だ。けれど私は、頂きます!と元気良く挨拶をしてスープを口へと押し込んだ。
「う、ぐ…」
不味い…スープの土臭い味、紫色の物体は生臭くて噛むと口の中にその生臭さが広がる。とんでもなく不味い。
「どうだ美味いだろ?しょっちゅうは食えないんだが、儲かった時とか祝いの時とか…特別な時はこれを食うんだよ」
メギさんがルーの彼女に食べさせてあげられて良かったと笑っている。
ルナール様と目が合った。ガラス玉の様な瞳が私をじっと見詰めていた。
嬉しそうに笑うメギさんの着ている服が擦り切れて所々破れている事に気が付いていた。そしてその体が痩せて細身である事にも。
そんなメギさんが自分達にとって特別な料理をご馳走してくれている。きっとお値段も安くは無い。
「そう、なんですか…」
不味いなんて言える訳が無い。メギさんに気付かれない様に必死にスープを口へと運び息を詰めたまま飲み下した。
「本当にルーは食わないのか?」
コクリと頷くルナール様。私は何とか笑みを作りながら、ひたすらスープを口へ運んだ。でも一番大きな紫色の塊を掬ってつい手が止まってしまう。
「僕は…」
ルナール様が私のスプーンを持つ手を取り引き寄せた。そして紫色の物体を口へと含んで飲み込んだ。
「これで十分。…美味しいね」
「はい、とっても美味しいです!」
微笑んで口にしたルナール様に私も笑顔で頷いた。