第5章 魔物の王
ルナール様の手を握った男の人は、唇を噛み締めると目を潤ませた。
「有難う、本当に…有難う。お前のお陰でお袋の命が助かった。何て礼を言えば良いか…」
握った手を額に引き寄せて、涙を堪えながら感謝を口にする男の人。ルナール様を見ると、その表情は僅かに緩んでいた。
「…良かったね」
「あぁ、本当に…本当に、有難う…」
ルナール様の言葉に感極まった男の人は涙ぐんだ瞳から堪えきれない涙を流した。私は訳が分からなかったけれど、ルナール様がこの人に良い事をしたんだと言う事は理解出来た。
「何か礼を…」
「…いらない。それより…あの魚族の女の人、知ってる?」
ルナール様が道の端で足を止めて会話している人をチラリと見た。その人は凄くスタイルの良い女性で、胸も大きくて腰はとっても細く、赤い艶やかなウエーブがかった髪が印象的な美女だった。でもルナール様の言うように耳の後にヒレが有り、肌には魚の鱗が所々貼り付いている。きっと魚の種族なのだろう。その美女が三人のスライムの男の人と楽しそうに話していた。
「ルー、お前も美人が気になるのか?最近ここら辺に住み始めたらしいんだが、紹介して…」
ふと、男の人と私の目が合った。驚いた様に瞳を瞬いた後、男の人はルナール様の背中を容赦無く叩いた。
「痛い…」
「何だよルー!彼女が居るのに他の女に声かけちゃ駄目だろうが」
「…彼女」
そこで始めてルナール様が私の方を向いた。私の姿を認めたルナール様がポカンと口を半開きにして、とても驚いた様な表情を浮かべた。
え、何ですかその反応。もしかしてルナール様は本当に私の存在に気付いてなかったの?
「…何で?何時から、居るの?」
「何時からって…お部屋を出てからずっと一緒に居ますけど…」
「……」
「……」
私とルナール様の間に沈黙がおりた。何だか気不味い。もしかして着いて来てはいけなかったのだろうかと不安になって来た頃、グゥと何かが鳴った。
「?!」
ルナール様と男の人が不思議そうに首を傾げる中、私はその音が何処から出たものなのか理解していた。私の顔が真っ赤になる。
「お、お腹が…鳴っちゃった…」
お腹を抱えながら自分で音の出どころを白状すると、ルナール様がブハッと吹き出した。
笑うルナール様に驚いている男の人。大笑いするルナール様の横で私は情けなく肩を落としたのだった。