第5章 魔物の王
ルナール様は慣れた様子でフラフラと城下へ歩いて行く。私は初めての場所に少し気後れしながら、ルナール様に寄り添って歩いた。
衛兵さんが慌てて着せてくれたルナール様のマントがずれていて、私はそれを歩きながら調える。本当に服装とかも気にしていない様子で、動いた拍子にフードがずれてルナール様のお顔が見えそうになる。
やっぱりお忍びなのだろうからバレてはいけないと、私はルナール様のフードをひたすら直し続けた。
何十分歩いただろう。お城から街へと続く道を下りきったルナール様は足を止めないままに街の中へと進んで行く。
街の建物は先程神殿から見下ろした通りに白色の壁が主で、街のあちこちに水路が通っていて、そこを小舟で移動する人達が居る。色とりどりの果実や、衣類、私が見ても分からない雑貨などを売っている舟なんかもあって日本ではみかけない光景に目を奪われた。
「わぁ、素敵!」
キョロキョロと周囲を見回していたら、つい足が止まってしまってルナール様に置いていかれそうになって慌てて追いかけた。
水路を跨ぐ白い橋や、いたる所にある噴水のオブジェがとっても可愛い。もっとゆっくり見てみたいけれど、ルナール様とはぐれてしまうと迷子になってしまうので我慢した。
暫くして、一つの大きな門を潜った。すると真っ白で綺麗な建物は無くなり、代わりに茶色く薄汚れた小さな建物がひしめく街並みに変わった。先程までの夢のような水の都はなりを潜め、今では何処かのスラム街に迷い込んでしまったみたいだ。
「ルー!」
こちらに向かって手を振る男の人。ルー?ルナール様の事だろうか。明らかにその男の人はルナール様に声をかけていた。
その人の姿形は人間だけれど、皮膚の表面には鱗が有った。目は片方だけが爬虫類の様に真ん中の瞳孔が縦になっている。でも頭には虫人のような触覚があるのだ。虫人…では無さそうだけれど、本で見た二本足で歩く蜥蜴の絵の人とも違う。
虫と蜥蜴が混ざった様な外見をしていた。
「おいルー!」
返事をしないルナール様にその男の人がもう一度声をかけた。するとルナール様が足を止めてそちらへと顔を向けた。
「やっぱりルーか!良かった、なかなかお前に会えないからどうしたものかと思ってたんだ」
ルナール様のお顔を確認した男の人が、嬉しそうに表情を緩めた。そして手を取ると、その手をしっかりと両手で握り締めた。