第5章 魔物の王
ノックの音が聞こえた。するとルナール様の動きが止まった。あぁ、笑顔が無くなっちゃった。それを惜しいと思いながら扉へと返事を返した。
「はい!」
「あ、あの、入っても宜しいでしょうか?お邪魔になりませんか?」
扉の向こうからやけに控え目な声が聞こえて来た。
「大丈夫です」
「で、でも、もし何でしたら出直して来ても…」
何故こんなにメイドさんは遠慮をしているのだろう。不思議に思いながらも、構いませんから、と返すととっても遠慮しながらメイドさんが中へと入って来た。まるで怯える様に扉から顔を覗かせた彼女は、キョロキョロと周囲を見回している。
「あの…」
「も、申し訳ございません!ナグル様がご昼食はどうなさるかと…」
部屋を見回し、私とルナール様を見たメイドさんは拍子抜けとばかりに肩を落とした。昼食、と聞いてルナール様の方を見たら、メイドさんの様子に大きな溜息をついていた。
「…いらない」
それだけ答えたルナール様が歩き出す。
「え?え?」
戸惑うメイドさんと私を尻目に歩き出したルナール様はメイドさんをすり抜けて廊下へと出て行く。
いらない、ってルナール様お昼ご飯食べないの?
「ルナール様、お昼ご飯は食べないのですか?」
「………」
「ルナール様?」
私の問いかけに答えずに歩いて行くルナール様を追いかける。廊下で擦れ違う魔物達が頭を下げる中、ルナール様はそれにも反応せずにのろのろとフラフラと何処かへ歩いて行く。
私はどうしたものかと迷いながらもルナール様に付いて行く。
「何処に行くんですか?ルナール様?」
「………」
問いかけてもまるで聞こえていないかのように歩き続ける。私は声をかけても無駄だと諦めて、大人しく後ろを歩いた。
少しずつ人の行き来が多くなり、お城の扉まで来るとこちらに気付いたスライムの衛兵さんが慌てて駆け出す。
「ルナール様!こちらを!」
「王妃様もこちらを!」
戻って来た衛兵さんの手にはフード付きのマントが有った。そのマントを必死でルナール様に被せる衛兵さん。その合間も足を止めずフラフラと扉を潜って門へと向かうルナール様にある意味凄いと感心した。
私も受け取ったマントを羽織り、フードを被る。
「お二人共、お気を付けて!」
敬礼して見送る衛兵さんにペコリと頭を下げて、私とルナール様はお城の外へと出たのだった。