第4章 虫の王
出発の朝。
私がチリの花畑をもう一度見たいと言うと、キリヤ様と一緒にお庭を散歩する事になった。
「は抜けてる所が有るから、迷子にならないように僕が手を握っててあげる」
なんて言われて手を繋いで歩く朝のお庭。チリの花畑も暫くは見納めかと思うと少し寂しい。キリヤ様の国は本当に沢山のお花が咲き乱れて、とても素敵な国だった。
キリヤ様と手を繋いでゆっくりと歩く。何と無くキリヤ様の口数が少ない。でも私も二人のこの静かな時間が大切に思えて、無理やり話しかけることはせずに少しでも長くこの時間が続くようにスピードを落としてゆっくりと歩いた。
「、この国の事は好き?」
「はい、ご飯も美味しいし虫達も優しくて好きです」
私の答えに安心した様に表情を緩めると、キリヤ様がチリの花を一本手折って私の髪へそれをつけてくれた。
「今度来た時はもっと、色んな場所に連れて行ってあげるから」
「はい!」
「ごはんも、もっとが好きそうなの考えておいてあげる」
「はい!」
「花だって、の好きな花をもっと沢山…」
「キリヤ様…」
キリヤ様が私を強く抱き締めた。キリヤ様が大きく深呼吸をして気持ちを落ち着けている。
「だから、さ、また僕に会いに、絶対に、来なよ?」
「…はい、必ず来ます」
私達は暫くチリの花畑の中で抱き合った。それでも時間は過ぎて出発の時間が迫って来る。この時間が終わってしまう。でも私は次の国に行かなくてはならない。
名残惜しく思いながらもまた手を繋いで花畑を後にした。
「ん?キリヤ様、あれは何ですか?」
場所的にはキリヤ様と私のお部屋から見下ろせる位置にある所。そこにこんもりと大きな山が五つ出来ている。そこに虫達が群がってひしめき合い蠢いていた。
「あぁ、あれは虫達が土に栄養を与える為に働いているんだよ。ここにの好きなロウムの花を植えるんだ」
「お部屋から見えますね!」
昨夜の泉での約束を思い出して笑が浮かんだ。
「今度来る時、楽しみにしてなよ」
「はい!」
─王妃、さま
ふと呼ばれた様な気がして振り返った。すると蠢く虫の山の隙間から黄色と黒が見えた様な気がした。でもそれは直ぐにまた虫に飲まれて見えなくなる。
「ほら、行くよ」
私はキリヤ様に手を引かれて歩き出した。