第4章 虫の王
「驚かせてごめん。そうは言ったけど、の回復の能力はずっと続くかもしれない。でも、とにかく初めての実験だからこれからどうなるか分からない…だから、出来るだけ無理はしないで」
キリヤ様が私の事を心配してくれているんだと分かった。私はキリヤ様の手を握り返して頷いた。
「良く…分かりませんが、キリヤ様が言うならそうします」
私の返事にキリヤ様が不機嫌そうに眉を顰める。
「ちょっと、真面目に聞いてるの?!」
「はい、ちゃんと聞いてます。でも難しい事は私には分からないので…だから出来るだけ怪我をしないようにします」
「…なら、良い。僕もこれからは出来るだけ実験に協力する様にするから」
だから、こう言う事は駄目だからね。とお腹を摩られて私は頷いた。キリヤ様は私を心配してくれているんだ。
実験で私以外は皆死んでるとキリヤ様は言った。実験…王様の花嫁になる為のあの薬。きっとあの薬の事だ。私が飲んだ後に熱を出して、食事も出来なかった時にお爺さんとお婆さんが何かの量を減らして分量を調節するとか何やら難しい事を言っていた。
でも良いの。私はどうせあの時に死んでいるんだから。お爺さんとお婆さんに育てて貰って、ご飯を食べて清潔な服を着て外で遊んで…普通の人間らしい生活を送って王様のお嫁さんになる。
そして子供を産んで…また子供を産んで…子供を産んで…子供を…
あれ?あの時に私が死んでるって何だろう?
ふと思い至って首を傾げた。それから何だか頭に靄がかかったみたいな…何かを思ったはずなんだけれど、それも忘れてしまった。
でも忘れる位なら大した事では無いんだろうと思い直して深く考えない様にした。
キリヤ様が気をつけろと言うのだもの。私は言われた通りに出来るだけ無理をしないように、自分で自分を傷付けない様にしようと決めたのだった。
「おっと、そろそろ始まったかな。見て」
言われて顔を上げると、暗い闇の中で発光する虫が泉の周りを飛んでいた。蛍みたい。
「わぁ!」
光がフワフワと浮いて周囲を飛び回る。またその光が泉に映ってとても幻想的だった。
キリヤ様が私を抱き締めてくれる。私はキリヤ様に体を預けた。落ち着くキリヤ様の香りに包まれながらも、何故か胸の中に小さな違和感を感じていた。
そうして虫の国の最後の夜は終わりを告げたのだった。