第4章 虫の王
「蜂蜜持った?あの国の夜は冷えるからちゃんと上着とかも…」
お散歩を終えて部屋に戻るとキリヤ様が私を甲斐甲斐しく世話してくれた。服も選んで髪まで整えてくれたのにはメイドさん達もビックリしていた。
「食事の事とか色々資料にして纏めておいたから、ちゃんと僕の用意した書類をルナールに渡しなよ?もしそれでも無理な時は僕に連絡して…」
オルガがキリヤ様の横で困った様に笑っている。
「あー、もうっ。やっぱり心配だから僕も着いて行こうかな!」
「キリヤ様、お気持ちは分かりますが…」
「分かってるよオルガ!でも、さ…」
オルガが肩を落とすキリヤ様から私へと目を向けた。そして近付いて来て床へと片膝をつく。
「お預かりしていたものです」
開けられた箱の中にはアダマンド様から貰ったペンダントとラウルフ様から貰った髪飾りが入っていた。オルガ、ちゃんと持っていてくれたんだ。
「オルガ、色々と有難う」
私はそれをしっかり受け取った。
「僕からはこれを」
キリヤ様が私の手を取った。留め金の音がして見下ろすと、シルバーの細いチェーンブレスレット。小さなチリの花を模したものが一個控え目に付いていて、可愛い。
「わぁ!チリの花ですか?」
「そう。それを見せると虫達がの力になってくれる。だからもし困ったら…使いなよ?」
キリヤ様がブレスレットをはめた手首に口付けてくれた。私はキリヤ様に飛び付いた。驚いたキリヤ様が私を抱きとめる。
「お世話になりました。また来ます!」
「うん、来ないと許さないから」
「ふふっ、はい!キリヤ様が怖いから絶対来ます」
何ておどけてみるとキリヤ様も笑ってくれた。キリヤ様が私の額にキスしてくれる。その優しい感触に目を閉じて暫く浸った。
転移装置が輝き出す。
キリヤ様が私を解放して、背中を押してくれた。
「ほら、早く行きなよ!僕はが居なくても寂しくも何とも無いんだからさ」
キリヤ様の触覚が忙しなく揺れてる。
─行かないでよ、が居ないと寂しいよ
触覚が揺れた意味を理解して唇を噛んだ。泣きたくない。泣いたらキリヤ様が心配するから。
「私はキリヤ様と離れたくないですよ!寂しいです!」
驚いた様に目を見張ったキリヤ様の唇が、小さく「僕も」と動いた様に見えた。
その瞬間、私の体が光へと消えた。