第4章 虫の王
ぐったりとして動けない私の体をキリヤ様が濡らした布で清めてくれた。泉の水は冷たかったけれど、動いて火照った体にはちょうど心地よかった。
「一週間は…短いね」
キリヤ様が何処か寂しそうにポツリと呟いた。私はキリヤ様の膝に座って背中を預けている。呟いたキリヤ様の声が寂しそうで心配になって見上げると、重なった視線にキリヤ様が苦笑いを浮かべた。
「まさか僕がこんな気持ちになるとは思わなかった」
チュッと戯れに頬に口付けられた。擽ったさに小さく笑う。
「が僕だけのものなら…いや、言っても仕方が無いね」
吐息をついたキリヤ様が寂しそうに見えて頬を寄せると、顎を取られた。そしてキリヤ様の唇が降りてくる。
「んっ、ふ…」
角度を変えられるとキリヤ様の牙が僅かに当たる。でも少しでも深くと舌を差し込まれて、私も応えるように舌を絡ませた。
舌同士を擦り付け絡めて、お互いの熱を確認する。もどかしい様な幸せな口付け。
「あっ、はぁ」
息が苦しくなって唇を離すと、笑いながら唾液で濡れた唇を舐められた。
「、聞きたいことが有るんだけど」
キリヤ様が乱れた私の髪を耳へとかけながら、静かな声を響かせた。
「は、蜘蛛達に襲われた時に自分で腹を裂いたよね?…何で?」
「それは…」
あの時の事を思い出して体が強張った。それを感じ取ったキリヤ様が申し訳なさそうに眉を下げた。
「それは、必死で…嫌だったから、だから…」
キリヤ様の手が震える私の手を握った。その強さに顔を上げてキリヤ様を見ると予想外に真剣な顔で見詰められて戸惑った。
「いい、よく聞いて」
キリヤ様が私のお腹に手を置いた。きっと私が傷付けた場所に触れているんだと思う。
「もう自分で自分を傷付けるような事はしないで。ううん、それだけじゃ無い。出来るだけ…怪我をしないように気を付けて」
私はキリヤ様に言われた事に首を傾げた。どうしてキリヤ様はそんな事を言うんだろう?
「、お前の体は強化されてる…でも、それが何時まで続くか分からない」
「え?」
言われた言葉が理解出来なくて、私は真意を探る様にキリヤ様を見詰めた。
「…、お前以外の実験体は、皆死んでるんだよ」
キリヤ様は私を真っ直ぐ見詰め返しながらそう言った。