第2章 悪魔の王
「食事でございます」
朝、目の前に置かれたのは赤い液体の入ったグラスだった。
「あの、これは…」
問いかけようとすると、召し使いの人は聞こえない振りをして足早に部屋から出て行ってしまった。
これは、多分アダマンド様が飲んでいたのと同じ血液なのだろう。何の血なのかは解らないけれど。
結局、私は飲むことが出来なくて朝食は取ることが出来なかった。
昼食も同じものが出てきた。そして夕食も。流石にお腹が空いて我慢できなくなったので、勇気を出してお願いしてみた。
「あの、すいませんが私の食べられる食事を頂けませんか?」
「貴女はアダマンド様の花嫁なのでしょう?ならこれで十分なはずです」
大きな溜め息の後、冷めた声でそんな事を言われた。
「アダマンド様の花嫁様が人間だなんて身の程知らずなのよ」
その小さな呟きが聞こえて何も言えなくなってしまった。結局、夕食も血液だけ。一度思いきって口をつけてみた。するとその生臭さと鉄の味に咳き込んで、慌てて口をゆすいだ。やっぱり私には血を飲むなんて出来そうにない。
「元気が無いようだがまだ一昨日の疲れが残っているのでは無いか?」
夜訪れたアダマンド様のお部屋でそんな事を言われた。私は慌てて否定に頭を振ると笑顔を作った。
「いえ、大丈夫です。ちょっと考え事をしていただけで…」
「そうか、それなら良いのだが…しかし、私と居る時は私以外の事を考えるな。そなたは今私のものなのだからな」
「はい、アダマンド様」
私を膝の上に座らせた彼の手が蜜で濡れた私の下部を弄る。与えられる快感に息を荒げながら私はただアダマンド様のくれる気持ちよさに身を浸した。
「ああっ!っ、はぁ、はぁ…」
「…」
アダマンド様が達した私の首元に鼻を押し当てて来る。私の名を呼ぶ息が熱く、時折苦し気な何かを堪えているような唸り声が聞こえた。
あぁ、アダマンド様はきっと血を飲みたいのだ。
だから私は体の方向を変えて、アダマンド様と向き合うと手を伸ばしてそっと抱き付いた。
「飲んで下さいアダマンド様。私の血を飲んで…」
そうねだるとアダマンド様の喉がグビリと音を立てた。
「良い、のか?」
「はい。アダマンド様に飲んで貰えるのなら、私は嬉しいです」
そう口にすると、アダマンド様が恐る恐ると言った様子で牙を私の肌へと押し当てた。