第2章 悪魔の王
「こんな所に居たのですか、アダマンド様が夕食を一緒にと言われています」
泣き疲れて眠っていたらしい。迎えに来た召し使いの人の声で目が覚めた。私はそう一言だけ告げた召し使いの人に連れられて部屋に戻った。
そこで新しいドレスに着替えさせられ、髪を結われる。支度が整うとアダマンド様が待つ食堂へと案内された。私は今度は一人でも戻れるように、その道順を必死で頭に叩き込んだ。
「!」
アダマンド様が食堂へとやって来た私を見て嬉しそうに表情を緩めた。椅子から立ち上がり、私をわざわざ入り口まで迎えに来てくれる。
「会いたかったぞ」
食堂の入り口に突っ立ったままの私の手を取ると、椅子へとエスコートしてくれた。その優しい仕草に胸が暖かくなる。さっきまで感じていた寂しさが消えていった。
椅子につくと、目の前にはこれまた見たこともない程の豪華な食事が並んでいた。鳥の丸焼きなんてクリスマスのテレビ位でしか見たことない。
「アダマンド様、お待たせ致しました」
「いや、着飾ったそなたが見れると思えば待つのも悪くはない」
そう言って貰えて私の顔に笑みが浮かんだ。大丈夫、アダマンド様が側に居てくれるなら私はここで頑張っていける。
「有り難うございます」
笑った私を見てアダマンド様が目を細めた。アダマンド様が召し使いに食事を取り分けるように指示を出した。すると、食べやすいように別けられた食事が私の前へと置かれる。
「さぁ、食べるが良い」
「はい、頂きます!」
促されて私はフォークとナイフを手にすると、料理を口へと運んだ。肉汁がたっぷりの鶏肉に深みのあるソースが絡んでとっても美味しい。
頬っぺたが落ちそうとはこの事だ。もっと、と手を伸ばしかけて私は手を止めた。
「あの、アダマンド様はお食べにならないのですか?」
アダマンド様が用意された食事に一斉手をつけていないことに気がついた。私だけ食べてしまって申し訳無い。
「あぁ、私の事はきにするな。私は悪魔だからな。食事は基本血だけで良いのだ」
そう言ってアダマンド様は赤い液体の入ったグラスを揺らして見せた。あそこに入っているのは血なのだろう。それを飲みながら、アダマンド様はにこやかに笑っている。
私は一時の楽しい時間を過ごしたのだった。