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人外王の花嫁

第4章 虫の王


「もうお腹いっぱいです」

我先にと花の蜜を運んでくれた虫達に、ご馳走様でした、と頭を下げた。すると喜んでるみたいに私の周りを飛び回る虫達。

「ははっ、こいつ等もを気に入ったみたいだね」

お腹がいっぱいになって、日差しも心地よくて…つい欠伸がもれてしまった。慌てて口を抑えたのだけれど、キリヤ様には見られてしまったみたい。

「さて、そろそろ二人きりにしてくれるかな?」

そう口にしたキリヤ様に虫達がゆっくりと去って行く。私の周りを何度か飛んでから去る虫達はまるでさよならの挨拶をしているみたいだった。

「また遊んでくれってさ」

キリヤ様が立ち上がると、大きな樹へと移動した。私を手招きして樹の側へと腰を下ろす。

「ほら、ここ」

膝を叩いて見せるキリヤ様に首を傾げると、隣に座った私を寝転ぶように促した。頭を引かれて倒れた先はキリヤ様の膝の上。膝枕だ。

「寝なよ」

「き、緊張して寝れません」

体を固くしてそう言うとキリヤ様に笑われた。

「眠いんでしょ?…寝なってば。まぁ、昨日から無理させてるからね。しょうがないよ」

優しく頭を撫でてくれるキリヤ様。あ、気持ちが良い…そう思って心地良さに浸っていると案外直ぐに眠気が訪れた。
周囲は静かで、日差しは程よく遮られて風が心地いい。私はキリヤ様の言葉に甘えて少し眠る事にした。




「本当に何で子供なんて産んだのかしら?金はかかるし煩いし…面倒なだけじゃない!あの人も結局は私を置いて出て行くし。子供を産んだ意味が無いわ!」

ごめんなさい、ごめんなさい…私は女の人に必死になって謝った。私が最近女の人に口にしたのは謝罪の言葉だけ。─さんと呼ぼうものなら酷く叩かれてしまう。

ごめんなさい!ごめんなさい…お…




「ぁ、さん…」

目が覚めた。また何だか覚えていないけれど嫌な夢を見た気がする。ふと、心地よい風が吹いて安堵の息を付いた。
視線を上げると、本を手にして真剣に読み耽っているキリヤ様の姿があった。暖かい。何時の間にかキリヤ様のマントが私の体に掛けられていた。その優しさに嫌な夢で乱れていた心が癒される。

何だか良い匂いがした。最近嗅ぎ慣れたチリの花の香りだ。何処から香るのかと目を向ければ、キリヤ様の持つ本から香ってくる。

そこには私がキリヤ様の為にと作ったチリの花の栞が挟まれていた。
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