第4章 虫の王
キリヤ様が連れて来てくれたのは周囲を岩で囲まれた穴の底。でもそこには光が差し込んで明るくて、澄んだ泉の周りに色んな花が咲いていた。
キリヤ様は静かに着地すると、私を下ろしてくれた。
「わぁ、素敵な所ですね!」
上空からしか入れない秘密の場所なのだとキリヤ様が教えてくれた。
「お腹が減ったでしょ、ご飯にしよう」
キリヤ様がお花畑に腰を下ろし、私も隣に座る。市の皆さんに貰ったものを広げると、キリヤ様がナイフでパンを切り分けてくれた。
「本当はもうちょっと市を見せてあげる予定だったんだけど、また今度ね?」
「はい!」
でも、私は市の皆に囲まれるキリヤ様を見てとても嬉しかった。皆は口々に、おめでとう、お幸せに、と言ってくれた。改めて結婚式をするから、と皆に言うキリヤ様に私は結婚式をしてくれるんだと驚いた。だって私は子供を産むための…
「?」
「はい?」
「もう、何ぼーっとしてるのさ。蜂蜜取って」
「あ、はい」
あれ、私は何を考えていたんだっけ?まぁ忘れる位なんだから大した事は無いのだろう。私はさっきおばさんに貰った蜂蜜の瓶を手にした。蓋を開けようとするのだけれどなかなか固くて開かない。
「ん、貸して?」
瓶をキリヤ様に渡すと、少し力を込めただけで瓶は簡単に開いた。キリヤ様はアダマンド様やラウルフ様と比べると細身だけれど、蓋を簡単に開けたり私を軽々と抱えるし力はやっぱり強かった。
「こうやって…」
焼き立てなのだろう、ほんのり暖かくてフワフワのパンにキリヤ様が蜂蜜をかけてくれた。美味しそう!
「食べてみて?」
「はい、頂きます!」
齧り付くとパンの柔らかな食感と蜂蜜のくどく無い甘さが広がって、ほっぺたが落ちそうに美味しかった。
「ふふっ、その顔は美味しいって顔だね?」
「はい、とっても!」
二人で蜂蜜のパンを楽しんで、野菜中心のお惣菜を頂く。お城で食べたみたいな豪華さは無いけれど充分美味しかった。
食事を楽しんでいると、ブーンと羽根の羽ばたく音が聞こえた。周囲からもカサカサと何かが動く様な音が聞こえて、私は緊張に体を強ばらせた。
「…来たね。大丈夫、噛んだり刺したりしないから」
周囲を見渡すと、蝶や蜂、足元には百足やダンゴムシなど色んな虫が顔を出した。
私を怖がらせない為か、一定の距離からは近づいて来ないみたい。