第4章 虫の王
「もう!もうもうっ!死ぬかと思いました!」
今、私とキリヤ様はチリの花弁が浮いたお風呂に浸かっている。
あの後キリヤ様は勿論私を落とす事なんて無くて、ちゃんと地面に着地出来たのだけれどジェットコースターよりも何倍も何倍も怖かった。
思い出すと未だに怖くて、涙目で頬を膨らませた。
「あははっ、悪かったってば。でもあの時のの顔…鼻水出てたよね?」
「キリヤ様の意地悪!」
だって本気で怖かったんだもの。クルリと背中を向けると、キリヤ様が背後から包み込む様に抱き締めてきた。
「しょうが無いでしょ?を見てると苛めたくなるんだから」
「…………」
「泣きそうな顔も怖がる顔も怒った顔も、全部僕にとっては可愛いんだよ」
そう言われて頬をつつかれると、照れてしまって頬が赤くなってしまった。
「ふふっ、赤くなった」
「っ、もう!」
からかわれたのだと知って意地悪の仕返しとお湯を手で飛ばしてキリヤ様へかけた。
「うわっ、ちょっと!何するのさ?!」
「キリヤ様が悪いんです」
口先を尖らせてそっぽを向いて見せた。するとニヤリと不敵に笑ったキリヤ様が手を伸ばして湯船の縁に置いてあった桶を引き寄せた。
「そう、がそう言う気なら仕方ないよね?」
「え、ちょっと!桶を使うとか卑怯ですよ!」
「卑怯じゃないよ、だって僕はこの国の王様なんだから」
僕が法律なんだよ、と笑うキリヤ様の目は本気だった。
「観念しなよ!」
「嫌ですぅー」
湯船の中を二人して走り回る。何時の間にか笑いが込み上げて来て声を上げて笑うと、キリヤ様の口元も緩んでいた。
「隙あり!」
「ぷふっ!」
頭からザバッと湯をかけられる。チリの花のとても良い香りがするお湯。癒されるけれど、今はそのお湯が鼻に入ってツンとして痛かった。
「うぅー!桶貸してください!今度は私がキリヤ様にかけます!」
「嫌だよ、誰が渡すもんか」
逃げるキリヤ様に追いかける私。でも湯を掻き分けながら走るのはなかなかにしんどくて、つい足が滑ってしまった。
「きゃあ!?」
「!」
抱きとめたキリヤ様と一緒にザブンと湯船に沈んでしまった。二人してお湯から顔を出すと、二人とも頭までずぶ濡れで…二人して目を合わせ笑ってしまった。
そして私達は笑いながら、キスをした。