第4章 虫の王
「さて、今日の仕事はもう荒方片付けたし。後は頼んだよオルガ」
「はい」
キリヤ様が私から花束を取り上げるとオルガへと渡し、次いで私を抱き上げた。
「わわっ!」
「ちょっと、暴れないでよ。落ちるよ?」
そう言われて慌てて動きを止めた。キリヤ様の首へと手を絡ませると、満足そうな彼の背中の羽根がピンと張った。
「ちょっと飛ぶけど、しっかり捕まってなよ?」
ブーンと音を立てて振動を初めたキリヤ様の羽根が風を起こす。オルガがバルコニーへと続く扉を開けると、私を見て嬉しそうに笑った。
「オルガ行ってきます」
「はい、行ってらっしゃいませ」
私も笑い返すと、キリヤ様がバルコニーから飛び立った。朝の風が冷たくて気持ちいい。清々しい空気を感じながら、キリヤ様は高く高く飛んで行く。
「わぁ!」
キリヤ様が私を抱き上げて飛んだ場所は城下が一望出来る位の上空だった。ちょっぴり怖いのでキリヤ様の首に手を回して体を支えながら街を見下ろす。大きなお城も今はとても小さく見えた。
「素敵ですね」
小さく見える家の一つ一つに虫人が住んでて、それぞれの生活があるんだろう。日本に住んでた頃は異世界が有ると聞いていても実感がわかなかった。だって異世界とかは本とか想像の中での出来事で、現実のものとはされて無かったから。
「ここが僕の国。まだここは王都だからほんの一部だけど…向こうには一年中花の咲き乱れた街も有るし、美味しい蜂蜜の産地も有るんだよ?」
あっちの方には砂漠が有る、と他にもキリヤ様が指をさして色々と虫の国の事を教えてくれる。
「素敵ですね、行ってみたい…」
「そうだね。しょうがないから連れてってあげても良いよ。は僕の妃だからね」
「はい!」
言い方はちょっぴり意地悪だけれど、私がこの国に興味を持つ事が嬉しいのかキリヤ様が頬を染めて、色んな場所に連れて行ってくれると言ってくれた。
嬉しくて首に回した手に力を入れて近付くと、首元に頬擦りした。そんな私に視線を送ったキリヤ様が優しく目を細めてくれる。
「さて、これ以上ここに居ると風邪をひくね。今日は二人で思いっきり遊ぶよ?」
「え?遊ぶって…きゃああああ!」
キリヤ様が急に急降下を始めた。私は怖くて怖くてキリヤ様に必死にしがみつく。
キリヤ様はしっかり抱き着いていないと落ちるよ、と楽しげに笑った。