第4章 虫の王
「…の五人はお言い付け通り─の餌に…」
「そう、くれぐれも──に知られない様に…」
声が聞こえて目が覚めた。起き上がって一瞬何処に居るのか分からなくて周囲を見回した。そう言えば昨日キリヤ様と…思い出して顔が赤く染まる。
ふといい匂いがする事に気が付いて横を見ると、チリの花束が置いてあった。キリヤ様は居なくなっていたけれど、代わりとばかりに置かれた花束。キリヤ様の気遣いに笑みが浮かんだ。
「で、蜥蜴の様子はどう?」
キリヤ様の声が聞こえる。蜥蜴と聞いて図書館で見た二本足で歩いている蜥蜴の絵を思い出した。私は花束を手にベッドから立ち上がると、昨日落としたままだった布を拾い体に巻き付けた。
「っ…」
中からドロリとキリヤ様の精液が零れて慌ててお腹に力を入れた。うう、お風呂に入りたいよ。
「…の岩場で見かけたとの報告ですが、兵を派遣した際には既に見付けられず。引き続き周囲を警戒中です」
「あそこはルナールの国にも近いからね。ルナールにも気を付けるように連絡しといて」
「はい、承知しました」
キリヤ様は誰かと話しをしてるみたい。私は薄く開いた扉に手を掛けた。すると音を立てて扉が開いた。
「、起きたの?」
執務机の前に座ったキリヤ様と、その前には兵士の制服を着たオルガが居た。詰襟のしっかりとした服装のオルガは初めて見たから、一瞬違う人かと思ってしまった。
「あ、すいません、お邪魔でしたか?」
「いや、大丈夫だよ」
キリヤ様が席から立って私のそばへと歩いて来る。
「王妃様、おはようございます」
「オルガ?」
王妃様と呼ばれて目を瞬いた。様って呼んでくれてたのに、王妃様って呼ばれると寂しい。
「オルガは元々僕の近衛だったんだよ」
それで兵士の服装をしているのかと納得したけれど外見も態度も何だかよそよそしく感じてしまう。
「あの、オルガ。良ければ王妃ではなくて、今まで通り名前で呼んで欲しいんだけど、駄目、かな?」
オルガがキリヤ様をうかがうように視線を向けた。私もお願いする様に必死でキリヤ様を見詰める。
「はぁ、しょうが無いね。好きにするといいよ」
「有難うございますキリヤ様!ね、オルガお願い」
私の言葉に困った様に笑ったオルガだったけれど、頭を下げながら「分かりました様」と答えてくれた。