第4章 虫の王
「残さず食べなよ?」
「はい!」
私のお部屋でキリヤ様と夕食を取る。野菜中心のとってもヘルシーなお食事。ハンバーグと思って食べていたのがお肉では無くてお野菜で出来ているのだと知って驚いた。
「美味しいです!」
「そう、それは良かったね」
小さく口の端を引き上げたキリヤ様がお酒のグラスを口へと運ぶ。私はジュースを貰った。ジュースは、甘過ぎずスッキリとしていてグレープフルーツみたいな味で凄く美味しい。
「お前は嬉しそうに食べるね」
「らっれ…」
「良いから、食べてから話しな」
私は詰め込んだお野菜で頬を膨らませたまま、コクコクと頷いた。そして飲み込んでから改めて口を開いた。
「食べられる事は幸せな事です」
「へぇ、何だか食べられない事の辛さを知ってるみたいな言い方だね」
言われた言葉に私は首を傾げた。お爺さんとお婆さんと暮らしていた時は確かに貧乏だったけれど、食べられないと言う事は無かったと思う。
「お爺さんとお婆さんに、食べ物の大切さを教えて貰ったからだと思います…けれど…」
そう答えてみたけれど、何だかしっくりこなくて胸にモヤモヤが残った。それでも、そんな違和感を気のせいと言い聞かせて食事を続けた。
この国の何が嬉しいって、デザートが嬉しいの。蜂蜜が凄く美味しくて、蜂蜜にも色んな種類が有るって初めて知った。
「あぁ、ちょっと待って」
キリヤ様がオルガに目配せすると、オルガが蜂蜜の瓶を手に私に近付いて来た。それは私が街でキリヤ様の為にと持って帰って来た蜂蜜だった。
「キリヤ様、これ…」
「僕と蜂蜜…食べたかったんでしょ?」
そっぽ向いて照れた様に口にしたキリヤ様に驚いた。泣きながら子供みたいに喚いて言った言葉なのに、キリヤ様は叶えてくれるんだ。
「はい、キリヤ様と…一緒に食べたかったんです」
オルガが、手にした蜂蜜を瓶から掬い果物にたっぷりとかけてくれる。次いでオルガはキリヤ様のデザートにも蜂蜜をかけた。
「んんっ、これ味が濃いですね。飴を煮詰めた様な香ばしい味も交ざってて…美味しいです!」
酸っぱいフルーツとよく合ってる。私の感想にキリヤ様が笑った。
「ふーん、なかなかに味覚は良いみたいじゃない。この蜂蜜はね、特別なんだよ…」
キリヤ様が蜂蜜のことを色々と教えてくれた。私は初めて聞くお話に心が弾んだのだった。
