第4章 虫の王
でも、本当にキリヤ様からは嫌な臭いなんてしないと思う。何故キリヤ様は自分の事を臭いだなんて思ったんだろう。
「何さ?何か不満でもあるの?」
私は気付かない内に唸っていたらしい。キリヤ様に言われて慌てて頭を左右に振った。
「不満じゃ無いです。不満じゃなくて…何故キリヤ様は自分が臭いだなんて思ってたのかなって…」
私が問いかけると、キリヤ様が私をじっと見詰めた後吐息をついた。そして徐に立ち上がると私の手を引く。
「行くよ」
「え?」
引かれるままに、とにかくキリヤ様について歩き出した。
「何処に行くのですか?」
「ご飯。お腹…空いてるでしょ?」
確かに、寝ている間はご飯は食べれて無いし傷を治す為に体力を使ったのかお腹はすごく空いている。でも、私は建物に入る手前で足を止めた。
もしかして、また虫人の誰かと一緒に食べるのかな?せっかくキリヤ様とゆっくり話せたのに、その時間が終わってしまうと思うと寂しかった。
立ち止まった私の手を何度か促す様に引いたキリヤ様が、また大きな吐息をつく。
「お前さ、面倒臭い」
「っ!」
面倒臭いと言われて唇を噛んだ。
「だ、だって…またキリヤ様以外の人が居るん…です、よね?」
また皆から蔑んだ視線を向けられたり、陰口を言われたり笑われたり…するのかな。
「いないよ、お前と僕だけ」
行くよ、と口にして歩き出したキリヤ様に戸惑いながら私はキリヤ様に引かれるままに歩いた。何処に行くんだろう、と思っているとたどりついたのは私の部屋の前だった。
「キリヤ様、様、お帰りなさいませ」
寝る為の用意をしてくれていたのか、私達の気配に気付いたオルガが扉を開けてくれた。キリヤ様の手と私の手が繋がれているのを見て小さく安堵の息をついた。
「余計な事を言ったねオルガ。後で覚えておきなよ?」
不機嫌そうにそう言ったキリヤ様に、オルガが苦笑いを浮かべた。私に色々と教えてくれたからオルガはキリヤ様に叱られてしまうの?私はキリヤ様に引かれて部屋に設置されたテーブルへと向かいながら、オルガを振り返った。
「キ、キリヤ様、オルガを叱らないで。オルガは私の為に…」
「…分かってるよ」
小さく、怒らないから、と不機嫌な表情のままに答えてくれたキリヤ様に嬉しくなった。握られた手がとても暖かく感じた。