第4章 虫の王
「キリヤ様、私がちゃんとご飯を食べられるようにって…人間界から色々と資料を取り寄せて調べてくれたと聞きました」
「…オルガから聞いたの?」
「はい」
キリヤ様が私の言葉に眉間へと皺を寄せる。
「服も、ジャージを用意してくれたり…」
「あれは…お前の胸が揺れたり剥き出しの腿が見苦しかっただけだよ」
そっぽを向いてぶっきらぼうに言う姿に、少しキリヤ様の事が分かってきた。きっと見苦しいとか言っているけど本心じゃない。
「じゃあ、私がお城の外に出るのを心配して下さったのも?」
「余計な手間をかけられたく無かったからだよ…そもそも、心配とかしてないから!勘違いしないでよね?」
ほら、キリヤ様の触覚が揺れてる。小さく、そして意地っ張りな事を言う時だけ頻りにピクピクと動いている。私はそれを見てクスクスと笑った。何がおかしいのさ、と怒るキリヤ様にすいませんと謝った。
「でも、初めてお会いした時も助けて下さいました。そしてその夜、私が襲われかけた時も…」
「お前はおめでたいね。そのきっかけを作ったのは僕でしょ?」
鼻で笑い飛ばしたキリヤ様の触覚がまた揺れる。だから私は自分の考えに自信が持てた。私は改めてキリヤ様と向き合い、その場に正座をした。そしてしっかりと伝わるようにと口を開いた。
「それでも助けて下さいました。キリヤ様…有難うございました」
私は頭を下げた。するとキリヤ様が顔を真っ赤にして数度口をパクパクと動かした。何て言っていいのか迷ってるようなそんな感じ。
「っ、本当に馬鹿じゃないの?!」
大きな声で言われて、肩を竦めた。
「でも…まぁ、せっかくだから…お礼、言われておいてあげるよ」
小さくボソボソと口にしたキリヤ様を可愛いと思ってしまった。調子に乗って飛び付くと、その反動でキリヤ様と二人でお花畑の中に倒れ込んだ。
「ちょっ、ちょっと!何すんのさ?!」
「えへへ、すいません。でも、何だかこうしたい気分なんです」
私は仰向けのキリヤ様に抱き着いた。
「離しなよ!」
「嫌です」
二人でゴロゴロとお花畑を転がった。嫌がるキリヤ様が私を押し返すけれど、私は離れまいと手に力を込める。
「離せってば!」
「嫌ですー」
嫌がるキリヤ様は本気では無かったんだと思う。じゃれ合っている間、キリヤ様が楽しそうに笑ったのを見て私も嬉しくて笑った。
