第2章 悪魔の王
「あっ、ああ」
ズルズル、ジュルジュルと音がする。首元が熱くてジンジンする。アダマンド様の喉が上下して私の血が彼の中へと流れていく。
「ん、ぐ…はぁ…」
ゴクンゴクンと飲み下す音が聞こえて体の力が抜ける。視界もぼやけて来て、私はアダマンド様の肩に手を置き、もう無理ですと訴えようとした。
「はぁ、んぐっ、ぐっ…」
でもアダマンド様は私の様子に気付いてくれなくて、一心不乱に私の血を貪っている。あぁ、視界が点滅している。
「アダマンド、さ、ま…」
何とか声が出た。途端にズルリとアダマンド様の牙が私の中から出ていった。
「っ、!」
アダマンド様の驚いた様な表情。私を呼ぶ声が聞こえて、返事をしようと思ったのだけれど口が動かない。私の意識は深い闇の縁へと沈み意識を失ったのだった。
「ん…」
カーテンの隙間から射し込む光の眩しさに目が覚めた。朝ごはんを作らなくちゃ、と眠気を振り切り起きようとして違和感に気付いた。私の腹部に何か重いものが乗っている。
何だろうと目を向けると、腕が見えた。それを辿っていくと私の横でアダマンド様が眠っていた。長い睫毛に彫刻のように整った容姿が朝日に照らされて神々しい。
「はわわわ」
驚いてつい声を上げてしまい、慌てて口を手で押さえた。そうだ、私は今異界にいて昨日の夜はアダマンド様の部屋で…
小さく唸った彼が気だるげに目を開けた。その仕草が色っぽくて見とれてしまう。
「申し訳ございません、アダマンド様。起こしてしまいました」
頭を下げた私に長い髪をかき上げて起き上がったアダマンド様は、急に我に返ったかのように私の方に向き直ると確かめるように頬へと触れてきた。
「、そなた気分は!?」
アダマンド様の焦り具合に驚いた。
「は、はい、特に変わりはございませんが…」
勢いに気圧されるまま答えた私の様子にアダマンド様は安堵の息をついた。
「すまぬ、無体はせぬと言っておいたのに私は…」
申し訳なさそうにしている彼の、頬に触れている手に私は自分の手を重ねた。そして頬を擦り寄せる。
「謝らないで下さいアダマンド様。アダマンド様は私に十分優しくして下さいました。凄く、凄く嬉しかったです」
アダマンド様は、そんな私を驚いたように見詰めたかと思うと自身の唇を私の唇へと重ねた。