第4章 虫の王
バシンバシンと女の人が私を叩く。
「本当に、何で子供なんて出来たのかしら」
バシンバシンと絶えず頬を叩かれて、ジンジンと痛んでいた頬は既に感覚が無くなりつつある。
「あんたが居なければもっと遊べるのに!」
憎々しげに女の人が私を睨み付ける。女の人は、今日近所の人から私の面倒をもっとしっかり見てあげなさい、と言われたらしい。家に戻って来た女の人は私の服を掴むとお風呂場へと連れて行った。
そして浴槽に何度か沈めて、苦しくて暴れるのを見ていい気味だと笑った。
それでも気が収まらなかったのか、女の人は私を叩いている。
ごめんなさい…
「あんたさえ居なければ!」
ごめんなさい、ごめんなさい、お──さん!
私は目が覚めた。嫌な夢を見ていた。凄く凄く嫌な夢。心臓が今でも早鐘を打っている。
ガタンと音がした。そちらに視線を向けると椅子から立ち上がって驚いた様にこちらを見ているキリヤ様が居た。
「様!」
オルガがベッドまで駆け寄ってくる。そして手を握ると、涙を堪えながら声をかけてきた。
「調子は如何ですか?!痛い所はございませんか?!」
「オルガ…」
とても心配してくれたのだろう、私の手を握るオルガの手が震えていた。
「うん、大丈夫だよ。まだくらくらするけど痛い所はもう無いよ」
そう口にすると、オルガが安堵の息をついた。
「何だ、本当に死なないんだ。気持ち悪い」
「キリヤ様!」
キリヤ様の言葉にオルガが抗議の声を上げる。
「キリヤ様いい加減にして下さいませ!様がお可哀想です!」
「オルガには関係無いでしょ?」
「私にヤキモチを焼く位なら、もっと様に優しくして差し上げて下さい!」
「っ!」
キリヤ様の顔がみるみる赤く染まって行く。私がその様子に驚いてキリヤ様を見詰めていると、視線に気が付いたキリヤ様が慌てて背中を向けて歩き出した。
「待って…待って下さいキリヤ様!待って!」
呼び止めたのだけれど、キリヤ様は止まってくれず。そのままお部屋の外に出て行ってしまった。
キリヤ様が出て行くと、オルガが大きな溜め息をついた。
「キリヤ様は素直じゃ無いんです。だから、これは言ってはいけないと言われているのですが…」
オルガが何処か楽しそうな表情を浮かべると、そっとキリヤ様の秘密を教えたくれた。