第4章 虫の王
乱暴に部屋の扉を開けたのはキリヤ様だった。キリヤ様は遠慮なく部屋の中へと入ってくる。
「ねぇ」
ぶっきらぼうに話しかけられて体が跳ねた。気まずくて久しぶりに見るキリヤ様から視線を外す。
「お前、体調が悪いわけ?」
私は否定に頭を左右に振った。
「体調が悪い訳じゃ無いの?なら何でご飯を食べないのさ?」
「それは…ただ食欲が無いだけです」
キリヤ様が私の様子に苛立っている。
「なら、何で部屋から出ないわけ?」
「それは…」
私は唇を噛んだ。それはキリヤ様が一番知ってるはず。私の事、邪魔に思っているんじゃ無いんですか?
返事が出来ずに居ると、キリヤ様の大きな溜息の音が聞こえた。
「……だから、人間は面倒なんだよね」
そう口にしたキリヤ様に私はもう我慢が出来なくなった。私は顔を上げて今にも泣きそうになるのを堪えながらキリヤ様を睨み付けた。
「キリヤ様が望んだんじゃないんですか?!」
私の言葉にキリヤ様が眉を顰める。
「私は…私はキリヤ様のお嫁さんだって、思って…」
だんだんと涙がこみ上げてきて、それを堪えるために鼻を鳴らした。拳を握って気合を入れる。
「思ってた、のに。それはキリヤ様にとって邪魔な事で…キリヤ様は、私の事がきらっ…嫌いなんでしょう?!」
「嫌い?誰が嫌いだって言ったのさ!」
キリヤ様も私の言葉に声を荒らげる。でも私はもう我慢出来なくて止まらなくて全てを吐き出したかった。
「一緒に蜂蜜食べたかった!もっと一緒にチリの花を見てお話しして、仲良く…仲良く、なって…」
もう涙は我慢出来なくて目からボロボロと大量に溢れていた。私は枕元に置いていたチリの花の栞を手にするとそれをキリヤ様に投げた。でも薄くて軽いそれはヒラヒラと落ちただけ。
「これも…これもキリヤ様にはあげない!キリヤ様なんて大嫌い!」
私は部屋を飛び出した。嫌い。嫌い嫌い。意地悪ばかりなキリヤ様なんて大嫌い。
私は逃げる様に走り出した。どこを走っているのか分からない。でもとにかく逃げたかった。
でもずっとは走れなくて、息が切れて苦しくてとうとう足を止めた。
「っ、はぁ、はぁ、う、うわぁん!うわぁぁ…っんぐ!」
泣き叫ぶ私の口を誰かの手が塞いだ。驚いてそちらに目を向ける。
「王妃様、やっとお会い出来ましたなぁ」
そこには書庫で私を襲った蜘蛛の男がいた。