第5章 過去
私はあの時まだあまりにも子供だった。
「亜煌君のバカぁぁぁぁ!!ママ返して!パパ返して!!」
あの時の彼の表情は今思い出しても恐ろしい。
憎悪に歪んだ
正しく
悪魔の顔。
私は訳もわからず泣き叫ぶだけだった。
あの時は母さんと父さんが死んでしまって悲しかった。
母さんと父さんを殺した彼が許せなかった。
彼の気持ちを少しでも考えれば、あんなことにはならなかったかもしれない。
「なんだよ、それ。」
彼の声は震えていた。
怒りが彼の中にはあったのだろう。
それに、・・・・・・悲しみも。
「僕は、燐ちゃんの為に、殺ったのに、なんで、そんなこと、・・・・・・」
『ママとパパ返してよぉ・・・・・・亜煌君なんか・・・・・・だいっきらい!!!!』
その言葉がいけなかったのだろう。
彼の手が私の首元に伸びた。
少しずつ彼の手に力がこもった。
少しずつ息をするのが辛くなっていった。
悲しみの中に身をおいた私は抵抗しなかった。
それを彼は感じたのだろう。
私の死を。
彼は手を離した。
「ち、違うんだよ。燐ちゃん!!僕は燐ちゃんのために・・・・・・」