第1章 プロローグ
「中継です。こちらYS銀行の前まで来ています。」
テレビの中のニュースキャスターがカメラに向かって訴えている。どうやらニュース番組の中継らしい。
「こちらの銀行で昨夜現金が盗まれたとの情報が入ってきました。入口は閉まっており平然としておりますが後ろの窓が割られていました。何者かが侵入したようですが足取りは掴めていません。」
スーツ姿にポニーテールの女性がマイクを手に訴えている。
この中継は街中に広まり話題を呼んだ。
誰もが事件に注目し、犯人の逮捕を望んでいたが一向に捕まることもなく時は過ぎた。これがあのマフィア一味の仕業だったとは誰もが想像もしないだろう。これはひと時の悪夢に過ぎないのである。夕食時、テレビの中継を見ながらエミリーは父に聞いた。
「銀行の中に入っても金庫があるでしょう?どうやって盗んだんだろうね?」
「さあね。僕にはわからないなあ。エミリーはこういう大人になっちゃダメだぞ。」
父親はにっこり笑った。
「はーい。」
エミリーは父と母、そして兄との4人家族だ。以前はハムスターを飼っていたが寿命により2年で亡くなってしまった。なので今は4人家族なのである。
エミリーの父は車の部品の工場で働いており仕事真面目で家族思いの良き父とこの街でも評判だ。母は主婦の傍らスーパーでパートもこなしている。そして兄が中学生で厄介な反抗期だ。兄の反抗には両親も手を焼いている。そしてエミリーは特殊能力を持って生まれた子だ。今ではすっかり両親の信頼を買い、超能力を糧に様々な大会に出ては賞を取ってきた。そんな家族が崩壊なんてこの時は考えもしなかった。