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サンロクゴ

第2章 2月【手作りは特別】ハイキュー/西谷夕




西谷は目を輝かせてやってきたと思えば残念だと騒いで去っていく。まるで小さな嵐のようだ。

去ろうとする彼の背中が、静かで、寂しくて、切なくて。


「西谷!」


つい、呼び止めてしまった。
赤く染まりそうな頬を、隠せているのだろうか。



「しょーがないなぁ」



カバンから取り出したのはコンビニで売っている、お気に入りチョコの箱。
お手頃な価格で手に入りやすいのに口の中ですっととろけていく。
銀紙で個装された一口分のチョコがいくつか入っていて、たまに買えば休み時間に友だちに配っている。
だけど今日は残念ながら出番がない。
オレンジ色のパッケージは、封すら開いていない。


バリバリと厚紙のジッパーを開ける音が響いた。
それを眺める西谷と、目が合った。
まさかと、文句を言いたいけど黙ってる、そんな顔。


それを無視して、3個取り出す。



「はい」
「たまにくれるヤツじゃんかよ!」
「だって、これしかないんだもん」
「…ま、いっか。ありがとな!」

飛び切りの、私の大好きな笑顔で去っていく。





渡しちゃった。




最近、包み紙が期間限定のデザインになった。
いつもは全ての個装がシンプルで同じ絵柄だった。


包み紙に描かれたアルファベットは「I」と「U」。
そこにポップな絵柄の「♡」のデザインを組み合わせる。





「大好き」って、気持ちを込めた。








手作りよりも特別な特別な、いつものチョコレート。
気づくはず、ないよね。
だって特別なのはフツー、手作りなんだからさ。
私の想いになんて、気づくはずがない。












しばらくするとスマホのバイブが鳴った。
タップする。

西谷だ。
その名前を見ただけで胸が高鳴る。
顔が綻びそうになるのを抑える。
メッセージを開く。



「俺も。ずっと好きだった」





目を見開いた。
嘘だ。
まるで夢の中にいるようで、頭が真っ白になる。
伝わった。
特別な想いが、伝わった。




END


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