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サンロクゴ

第9章 3月 【柔らかな風の吹く日に】黒バス/青峰/and more







2人は電気の消えた体育館に忍び込んでいた。
人がいなくても体育館というのは、汗が染み付いたような不透明で独特の空気に変わりはなかった。

「やっぱり、高いですね」

ノトはバスケットゴールの下、リングに向かって懸命に手を伸ばしている。










青峰はノトを見つめながら、これからはバスケの側に彼女がいると思うと喜びが溢れて止まらなかった。

背伸びをする仕草ですら愛おしく思い、口元が緩んでいく。

ノトは靴下のままでリング目掛けて飛ぼうとするから、咄嗟に二の腕を掴んだ。
細くて柔らかな腕だった。


「やめとけ。滑んぞ」
「すみません、つい」



ーー青峰さんが触れたリングに、触れてみたいと思ったんです



「そろそろ、帰りますね。今日は、ありがとうございました!」








ーー帰る?まだ、足りねぇよ










体育館の扉に手をかけたノトの背中を包み込むように青峰は抱きしめる。
小さくて柔らかな彼女は、熱かった。

「合格祝い、なんだったか覚えてるか?」

耳元に、小さな声で囁いた。
ノトは強張って身動きひとつできないようだ。
耳たぶを指で軽く摘むと熱を帯びているから、たぶん真っ赤なんだろう。

「言ってみろよ」

意地悪心から、どうしてもノトの口から言わせたくて諭すように優しく頭を撫で続ける。

「ご、合格…したら…」
「したら?」
「……キス」
「正解」









青峰はノトの唇に、触れるだけのキスをして一度離れた。
薄暗い中俺を見上げ続けるノトの頭を撫でると、まるで性感帯に触れたように目を細めるから、堪らなくなって今度は少し長めのキスをする。






俺のために、わざわざ必死こいて桐皇に来たんだろ?

それは

「俺と一緒にバスケしてぇから、だけじゃねぇよな」
「!」





俺はお前を守るために、側にいてやるから





「今日から俺の女、でいいだろ?」
「……はい」





最後にもう一度、愛おしいノトの柔らかな熱い唇に、キスを。






「頑張ったな、ノト」







END


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