第7章 7月【星降る夜、君とふたりぼっち】スラムダンク/三井寿
三井家と海老沢家の挙式の開始時間が、あとわずかに迫っていた。
招待客はすでに集まり式場のエントランスは賑わっているようだ。
控え室では純白を身に纏ったノトが魔法に掛けられていく。
綺麗に整えられた髪の上に輝くサークレットが飾られる。
コルセットのおかげがいつもより伸びる背筋。
顔にはいつもより濃いメイクが施され、身体中にキラキラのパウダーが舞い降りる。
まるで自分が、自分じゃないみたいだ。
ドアに2度のノックが鳴り現れたのは、早々と着替えを終え様子を見に来た花婿だった。
ノトは鏡越しにその姿を見つけ、どう?と微笑むと、三井は「まぁまぁいいんじゃねー?」とそっぽを向いた。
その整った顔と長身には、純白のタキシードがよく似合っている。
「三井」
「だーかーら。今日からお前も『三井』になんだって」
「そうでした。寿サン」
ごめんねと微笑むノトと、美しいその姿に照れる気持ちを隠せぬ三井。
スタイリストは気遣ってか本当なのか、忘れたメイク道具を一つ取ってくると扉の外へ慌てて出て行った。
緊張と喜びに満ちた控え室に、ふたりぼっちの空気が流れていく。
「寿、あの日さ。初めて親に挨拶に行った日のこと、覚えてる?」
「忘れられる訳ねぇよ。なんだ、いきなり」
「親子の縁を切ろうとしたとき、止めてくれてありがとう」
ノトが今、意地や確執を全て捨て払い真っ白で素直な気持ちでいられるのは、この衣装のせいなのだろうか。
「……なんだよ急に」
「……ううん、思ったことを、口にしただけ」
結局、ノトと三井は「披露宴を行う」という選択をした。
三井も決して世渡りが上手い人ではないから、冷や汗を垂らしながら、冷たい剣幕の父親に挙式だけをしたいと申し入れる姿を見たとき、ノトはふと自分が俯瞰して見えた。
私は何にこだわっているのだろう。
こんな時くらい、例え大嫌いであっても、私を産み育ててくれた掛け替えのない人を思ってみよう。
そう思わせてくれたのは、三井のおかげだ。