第7章 7月【星降る夜、君とふたりぼっち】スラムダンク/三井寿
病院の廊下は消毒液のような独特の匂いが漂い、幼い頃体が弱かったノトは遠い記憶を思い出す。
忙しかった父が休みを取って、私を喜ばせようと普段は決して買ってくれない付録付きの雑誌を買ってくれて、1日中側にいてくれることが、嬉しかった。
そんなパステルカラーの記憶を思い出しながら、ノトの足は三井のいる病室へ足早に向かっていく。
不良をしていた頃、折れては放置の自然治癒を繰り返していた三井の助骨。
そこだけは、あの頃の弱虫のまま時が止まっているのかもしれない。
検査を終えた三井に告げられたベッドの上の拘束時間は1週間だった。
会社の同僚や赤木や木暮、安西先生の教え子たちもお見舞いに来ては、花瓶の花が絶えることはなかった。
決して友人が多い方ではないだろうけれど、弱虫の三井は愛されていると思う。
あの時の「挫折」なくエースの道を歩み続けていれば、こんなにも「人思い」の三井はここにはいなかったのかもしれない。
すぐ退院なんだから見舞になんか来んじゃねーよと友人たちを煙たがりながらも二カッと笑うその顔を、ノトは愛おしく思った。
ある日の病室は、三井とノトの2人きりだった。
ノトが病室に辿り着けば三井は眠りについていた。
テーブルに置かれていたのは、退屈だろうからとノトが買ってきた1冊の小説。
三井にとってそれは最高の睡眠導入剤らしい。
すやすやと眠る彼の長い睫毛を見つめていたら、ノトにも睡魔がやってくる。
三井がはっと目を覚ますと、そこにいたのは自身の手を握りながら居眠りをする最愛の人。
目を覚ませば側に愛しい人がいる。
なんて幸せなんだろうか。
この幸せを一生守ると胸に誓った、6月のある日。
『星降る夜、君と2人ぼっち』
これから書き綴られるのは、2人が苦難を乗り越え誓いのキスを交わすあの夏の日までの物語、後半戦。