第5章 5月【ゴールデンウィーク】黒子のバスケ/木吉鉄平
「仕事、好きか?」
うーんとノトは唸りながら、木吉にご馳走になった缶コーヒーに手を伸ばす。
糖分が含まれたそのコーヒーは、疲れた体に染みていく。
「嫌いじゃないですよ。1日のほとんどをここで過ごすんだから、楽しくないとって思います」
「そっか」
木吉はノトの頭をワシャワシャと撫でた。
大きな手は力加減が苦手のようで、掴まれた頭は少し痛い。
「い、犬じゃないですよ、私!」
「当たり前だろ?」
「! だ、だから…」
どんなボケだと木吉を見れば本気で不思議そうな顔をしているから、ノトはその先の言葉に詰まる。
「と、とりあえず離してください。手」
「ああ、すまん」
頭の上に乗った大きな手は力が抜けて、てっぺんを優しく何往復かした後に耳の後ろを通り、髪の先をサラリと撫でて離れていった。
どういうつもりで頭に、髪に触れたのか、木吉の心は全く読めない。
ノトは恥ずかしさにどうして良いか分からずにキーボードを叩き始める。
木吉はこちらを向いたまま、まだ仕事を再開させる気はないようだ。
「俺もこの仕事が好きだし楽しい。けど年を重ねて、最近ふと思うんだ。それだけじゃダメだって」
ノトは木吉の真剣な声色に手を止める。
彼と目を合わせるか、ためらった。
木吉は何か大事な話をしようとしている。
ここから逃げ出したい気持ちと受け止めなければいけない気持ちの両方が葛藤し、体が固まっていく。
「誰かのために、働きたいって思うよ。好きな人と、いつか家族になりたいって思ってる」
ノトは息を呑み、木吉の顔を見上げた。
その顔は、優しく大きく、笑っていた。
「今日でこれ、終わらせようぜ」
「え!?今日で、ですか」
「ああ。で、明日付き合ってくれないか?ドライブ」
「…2人で?」
「せっかくのゴールデンウィーク、休日も楽しまないと」
「……」
「…ダメか?」
「…よろしく、お願いします」
「おし、がんばろうな♩」
END