第5章 5月【ゴールデンウィーク】黒子のバスケ/木吉鉄平
ゴールデンウィーク、1日目。
1人暮らしのアパートを出れば大きなトラックが止まっていた。どうやら隣の部屋の家族は、引越しをするらしい。
私は目的の場所まで歩いた。
今日の空は行楽日和。
途中の公園、子ども達が父親にブランコを押してもらい楽しそうに笑っている。
ホームセンターの隣を通ればおじいちゃんが木工具を持って、おばあちゃんの隣で笑っていた。
何か孫にでも作るのだろうか。
花屋の前では真っ赤なカーネーションが並んでる。
ああ、もうすぐ母の日か。
ヒールを鳴らして向かう先。
それは日常のほとんどを過ごす場所。
休日返上、今日も私は自主出勤だ。
職場の入り口にそっと触れる。
カギは開いていた。
どうやら先客がいるらしい。
「おう、おはよう」
「おはようございます!」
優しい顔を見せるのは、隣の隣のデスクの先輩、木吉さん。
ノトは自身のイスに座るとパソコンを用意し、スタートボタンを押した。
起動するまでに木吉を見つめる。
いつものスーツではない軽い格好だが、パソコンに向かう目は真剣そのものだった。
視線に気がついた木吉は、ノトを見てにっこりと微笑む。
「なんの仕事?」
「先日、急に部長が振った例の案件です」
「ああ、それか」
「ほんとあの部長、思いつきも大概にしてほしいです」
「俺は素晴らしいアイディアだと思ったよ。ま、実現するのは、そう容易くはないがな」
がんばろうと微笑んで、木吉はまたパソコンと向かい合う。
無理難題だって、急なトラブルだって、笑ってサラリとやり過ごしてしまう先輩の背中が、本当にカッコ良いと思っていた。
今日は来て良かった。
そんな人と2人きりなんだから。
もしかしたら、一緒にランチだって行けちゃうかも。
距離がもっと、縮まるかも。
そんな淡い期待を胸に、ノトはキーボードを叩き始めた。
大型連休の初日、あなたと私、2人きりの静かな空間で。