第1章 コスモコード
「じゃあね夏目くん。また…そうね、次会えるのは木曜日かな?…ああ、今日はまだ月曜日よ、夏目ケンジくん」
天川はまた心の中を見透かしたようなタイミングで返事をする。さよなら。薄い唇がまた鈴の音を鳴らして踵を返す。黒髪が背中で波をうった。シャンプーが香る。白昼夢を見ているようだ。
すると、教室のドアの前で天川はこちらを振り返る。
「これは夢なんかじゃないわ、夏目くん」
そう言って、周りの男子生徒の視線は気にも止めず、少し困ったように笑うのだった。
変な女じゃ。
天川、星。
月ででも生まれたような、どこか透明な感じがした。
「好きなの」
今覚えばあの一言だけは熱を持った人間的な声だったかもしれない。
好きじゃとか、人の心読んだりとか、変な女じゃ。
あの女はきっと宇宙人に違いない。
「…ちょっと、寝るかの」
目を閉じるとまだシャンプーが香っている気がした。