第3章 ムーンライト
「夏目くん、私と付き合う気になった?」
「なるか、ボケ」
「あらそう残念ね。まだ先かな」
殴られた腹をさすりながら、俺は天川の後をついて歩く。すっかり赤くなった空は天川の白い頬を人間らしいオレンジ色に染めた。
背中に揺れる黒髪はあいもかわらずさらさら流れてシャンプーの香りを漂わせる。
「なあ、お前は何でワシのことを知っとるんじゃ」
天川は振り向いて嬉しそうに笑う。
「ずっと知っているわ。夏目くんが、この星に生まれたときからね」
この煙に巻くような物言いにも、悲しいかな、少しずずつ慣れ始めていた。ワシはため息をひとつつくと、頭を掻いた。
「なあ、ワシはお前のことを、すまんが全く知らん。お前が誰なのかも…」
「あら、知ってるはずよ、夏目くん。私の名前は?」
「…天川」
ワシが答えると唇が満足そうに弧を描く。