第1章 コスモコード
「夏目くん、」
昼休み。頬杖をついて校庭を眺めていたワシはやけに静かな声に視線を向けた。
誰じゃ、こいつ。
艶のある黒髪はストレートで胸の下ほどまで伸び、ぱっちりとした二重は切れ長、その中の瞳はこれまた真っ黒。
それとは対照的に肌は雪みたいに、いっそ病的なほどに真っ白じゃ。
どんなに記憶を巡っても見つからないこの女は、誰じゃ。
そんなワシの思考を一欠片も察知せず、女は薄い唇を曲げた。
「夏目ケンジくん。ちょっと乱暴だけど根はいい人ね。喧嘩っ早いのは直した方がいいかも。あとは…そうね、好きな物には一途ね。例えばバスケとか」
「あ?」
その女は鈴を鳴らしたような声で早口にまくし立てた。変な女だと、第一印象が決定する。眉間に皺を寄せると女は、怒らないで、という風に人さし指を唇にあて、首を傾げた。
さらりと流れた髪の毛からシャンプーが香る。
「変な女だと思ったでしょ」
何じゃ、こいつは。