第6章 5月。
馬鹿みたい。溺れた私も馬鹿だけど、引き際を知らない男ってのも本当に馬鹿。
「なぁ、唯……」
スマホから届く情けない声に答えずにいると、星夜が代わりに口を開いた。
「俺、唯の新しい彼氏です。もう唯のことは忘れて下さい。俺が幸せにしますんで」
「なっ、待ってくれ……」
ピッという電子音と共に静けさが広がった。気まずい沈黙を破るように、男の人の顔になった星夜が一歩前に出る。
「何か、ごめん……んっ……」
言葉は途中で遮られて唇が絡まった。拒もうとしても首と頭を押さえつけられて許してもらえない。躊躇なく割り込んでくる舌を噛んでやろうと思ったけど、噛もうとする度絶妙のタイミングで逃げていく。
「はぁっ、はぁっ……やめてよ……」
たっぷり5分は続いたキスから解放されて、回らない頭を振って星夜を睨む。
「あんなの、唯さんには似合わないよ。俺だったら唯さんのことだけ想ってあげるよ」