第5章 4月。
「お母さん、イチゴ買ってきてくれたー?」
一階の玄関に気配を感じて、ソファーに寝そべったまま声を張り上げる。
返事をしないお母さんは、またイチゴかって呆れてるのかな。
「ダイエットは必要ないって言っただろ。甘いものはイチゴだけってやつ、まだやってんのかよ」
リビングの入口から聞こえた声に、心臓が一回転した。
精一杯平静を装って、掠れた声を出す。
「お兄ちゃん、久しぶり。……別にダイエットはもうしてないもん」
嘘だけど……心の中で呟いて座り直す。
普通って、何だっけ。兄妹ってこういう時どんな会話をするんだっけ。お母さんは買い物だよとか?……そんなこと解ってるか。
「お前、本当に嘘つきだな」
うっ……と言葉に詰まるけれど平気な顔をする。
「嘘なんてついてないよ」
「お前の気持ちはもう解ってんだよ。俺も覚悟決めたから、お前も決めろ」
どういう意味?って尋ねたかったのに、私の口は塞がれた。1ヶ月ぶりの、柔らかい唇で。