第5章 4月。
頭を抱えて動かないお兄ちゃんに、わざとらしいくらい明るい声をかける。小さな頃「お父さんとお母さんには秘密だよ」ってよく指切りをした。
テストの点数が悪かった時、お母さんのお気に入りのネックレスを壊しちゃった時。お兄ちゃんはいつも苦笑いして、「仕方ないな」って小指を絡めてくれた。
私は無理やりお兄ちゃんの小指を引っ張った。
「ね、忘れよ。誰にも秘密だよ」
これ以上平気な顔なんてしていられるわけがない。コンサートの舞台裏ってこんな感じかな、なんて場違いなことを考えながら素早く服を身に着ける。お兄ちゃんは顔も上げない。
「たまには実家にも顔出してね。お母さんも会いたがってたよ。じゃあね……バイバイ」
扉が閉まった瞬間、堪えきれなかった涙が頬を伝う。
……全部、終わっちゃった……。