第5章 4月。
「唯……なのか…………?」
30センチの距離で真っ直ぐに見つめられる。
何で……?
すぐに否定するべきなのに、私には出来なかった。お互い固唾を飲んで相手を見つめている。均衡を破ったのは彼だった。
右手でごしごしと私の顔を擦る。右目の下に目的のものを見つけたんだろう。
繋がりが解けて、突然激しく頭を振り出した。
「マジかよ……お前、何やってんだよ! いや、俺も俺だ。酔っぱらってたからって、妹に手を出して気づかないって、ないだろ‼ ほんっと、何やってんだよ……俺……」
完全に混乱しているお兄ちゃんを前に、私は妙に冷静だった。こんなことをしておいて馬鹿だと思うけれど、これ以上お兄ちゃんを苦しめるわけにはいかない。
告白なんてしちゃいけない。
「エイプリルフールだから、ちょっとからかってみようと思ったの。ホントに最後までしちゃうと思わなかったけど私も酔っぱらってたし……ごめんなさい。でもちゃんとゴム着けてたから子供が出来るわけじゃないし、お互い忘れよ。ね、お兄ちゃん」