第4章 3月。
「誘われて何度か関係を持ったの、見られてたんだね。傷つけて……本当にすまない」
項垂れた賢一さん。いつも凛として優しくて、捨てられそうな子犬みたいな姿を見たのは初めてだった。
まさか私に捨てられたくなくて、こんな顔をしてるの?
「賢一さんは私の事、本当に好きなの?」
思わず呆けた顔で尋ねると、頬が彼の両手に挟まれた。
「好きだよ……愛してる。お願いだから僕の傍にいて」
一回りも年上の旦那様からこんな告白。
胸がきゅんとして苦しい。忘れられない光景の中の横顔は無表情で、こんなに切なそうな顔はしてなかった。
私、信じられる?
賢一さんのこと、信じられる……?
「はい……」
小さく頷くと、賢一さんの表情が苦し気なものに変わった。「ごめん、唯。僕はもう、今までみたいに傍にいるだけじゃ満足できないんだ。唯に触れたくて、キスしたくて我慢できない。それでも君は、僕を受け入れてくれる?」