第4章 3月。
3LDKのマンションでは圧迫感があるくらいだった7段飾りが、この家では小さく見える。
掃除や片づけが得意だったお母さんが瞼の裏に浮かぶ。
賢一さんが言ったように、きちんと手入れしてくれていたんだろう。お雛様とお内裏様はショーケースに飾られていてもおかしくないくらいに美しかった。
お母さん。
もしお母さんが生きていたら、賢一さんの事を相談したかったよ。私にはもう彼しかいないのに、何を考えているのかさっぱりわからないの。
3月4日に必ず桐箱にしまっていたお母さんのおかげで、私こんなに早くお嫁に行っちゃった。
……なんて、お母さんが生きていたら、彼と結婚することもなかったのにね。
自虐的な笑いがこみ上げてきて、思わずお雛様を掴む。
お雛様を触るときには必ず手袋をしなさいって、いつも怒られていたのに。
「私は賢一さんのお雛様じゃないっ」
私の手から離れて宙を舞ったひな人形は、あっけなく床に落ちて大きな音を響かせた。
「あ……」
違う。こんなことがしたかったんじゃないの。
頭の飾りと扇子が外れてしまった人形を抱えて「ごめんなさい。ごめんなさい……」と呟く。
「どうしたの?」